2015年と今後の有機EL産業の動向と予想をまとめる。
有機ELテレビ
l テレビ市場は2015年に約2億3千万台の市場を形成したが、2014年の2億5千万台に比べると2千万台が減少し、2016年も昨年と同じ水準になるとCESの関係者が述べている。2016年の予想は、55インチ以上のサイズのプレミアムテレビ市場であるUHD TV市場は、全体テレビ市場の21%である約48万台である。UHD Allianceが追求するUHD TVの主な仕様としてはimage resolutionとcolor bit depth、color palate、high dynamic range 4つの要素である。これらの仕様を満足させる液晶テレビや有機ELテレビは、2016年から市販される予定である。液晶テレビメーカは有機ELの特長である鮮明な色に対応するために、量子ドット( Quantum dot)技術を開発し、また、有機ELテレビが可能な1,000,000:1のコントラスト比に少しでも近付くために、様々な技術開発を進めているが、まだ3,000:1レベルである。
l LGディスプレイから2013年第4四半期に発売された有機ELテレビは、2015年第1、第2四半期にそれぞれ約5万台が出荷され、第3四半期に10万台が出荷され、第3四半期のみで上半期各四半期の出荷量の約2倍以上を出荷した。また、第4四半期にも20万台近く出荷したと予想されて、LG ディスプレイの2015年目標の約90%以上が達成されたと見られる。
l この成長は、有機ELテレビの価格が初期価格の半分ほどに下落し、他のテレビとの価格競争力が生じたためと、新たに発売される液晶テレビより有機ELテレビの利点を強調する積極的なマーケティング活動が市場で発揮されている成果に見える。
l LG電子は有機ELテレビでUHD Allianceが要求されるHDR 仕様の540nitのピーク輝度をすでに2015年に達成した。さらにCES2016で出展された有機ELテレビはピーク輝度800nitとなり、UHD Alliance規格の540nitの150%の値となった。
l LG ディスプレイは、2015年の第3四半期の業績発表会で、2016年の有機ELテレビ用パネルの出荷量を100万台と発表し、今後の有機ELテレビの成長を予測した。UBIリサーチは、パナソニックが参入するので120万台と予想しているが、55インチ以上のTV市場で有機ELテレビのシェアは4%に過ぎない。有機ELのテレビ市場は2020年までに約1,100万台規模に成長すると予想され、材料や機器の市場が爆発的に成長するだろう。
l CES2016でのLG ディスプレイの発表では、製造歩留まりが55型HDパネルでは80%以上と大幅改善を達成し、新パネルの性能も大幅な改良が施された。まず、パネルの寿命については、輝度の半減期は既に10万時間を超えたことに加え、焼き付きに対して対策を行った。同じ位置にステーションロゴが出るテレビ番組が多く、焼き付きは自発光の有機ELにとって問題である。これまで焼き付き対策のためにTFTを常時監視していたが、新しいパネルでは有機EL層も画素単位で監視する。通常と違うカラーバランスを検出したら、他のサブピクセルのゲインを調整することで、長い期間にわたって恒常的なホワイトバランスを維持する道を拓いた。次にHDR対応の輝度と色再現を獲得した。800cd/m2という有機ELでは高い輝度の実現には、材料改善と構造の改良の効果があった。さらに色域も、第1世代がSRGB比で113%だったが、今回は130%までカバーした。
l CES2016でのもう1つのテーマが、有機ELは画質の高さだけでなく、折りたためたり、曲がったり、透明化したり、といった有機ELならではの開発である。その一端を見せたのが18型のローラブル有機ELパネル展示だった。直径3cmまで紙のように丸めることができる。まず18型でスタートしたが、次の目標は大画面である。今回のパネルは研究レベルの設備で作った。ローラブルは大画面が目標である。家庭のリビングの大画面テレビは、使わないときは単なる黒い板で見苦しい。使わないときは、スクリーンのように巻き上げておく。使うときにリモコンのスイッチを入れ、巻き上げておいたスクリーンを垂らして、テレビ画面を出現させる。
l LG ディスプレイの有機ELのWOLED構造の発光層は、青色が2層、黄色(黄緑)が1層の構造である。現在の蒸着プロセスでの材料の使用効率は40%であり、ボトムエミッションを採用している。今後の量産には基板サイズが8Gのインクジェットのプロセスを開発する。インクジェットでは発光効率や寿命が蒸着プロセスより劣るので、低価格な有機ELテレビとして売り出すであろう。インクジェットでは材料の使用効率が高いので、低価格での製造が可能である。TFTは酸化膜であろう。
l サムスンは2018年から同様なWOLEDのTV向けパネルか、RGBのテレビ(AMOLEDのトップエミッション)の量産を考えるが、事業の優先度は低い。TFTは酸化膜である。サムスンはインクジェット装置で、G2ラインで400cd/m2の試作に成功した。LT95で3,000-4,000時間であった。この場合でも、ETとEIは蒸着プロセスで行う。一方、タブレットやノートPC向けのAMOLED中型パネルの製造には消極的であり、現在は歩留りも高くは無い。
ギャラクシー S6 Edgeと今後の展開
l サムスン電子がギャラクシーS6とギャラクシー S6 Edgeを発売した当時は、出荷数量を5対5で期待した。しかし、実際の需要量でS6 Edgeが70%を占め、供給不足となった。このために、サムスンディスプレイではフレキシブル用のAMOLED製造ラインを計画よりも前倒しで稼働して、2億3,000万台生産し、需要量を満たすことができた。
l 2015年のスマートフォン予想市場は約15億台であり、サムスン電子とアップルがそれぞれ20%と15%の市場を占有している。UBIリサーチによると、2015年のサムスンの有機ELパネルの製造能力は3億万台、2016年の製造能力は3億7,000万台に鳴ると予想される。
l ギャラクシー S7はさらに開口率を上げて輝度が上がり、省エネなディスプレイが採用される。2016年のギャラクシー向けのAMOLEDパネルは、2億4,000万台と予想する。ギャラクシーの80%が有機ELになる。2020年までに全世界のスマートフォン市場が約20億台まで成長し、このうちサムスン電子は約4億台を占める見通し。ギャラクシーに適用されているディスプレイのうち有機ELの割合は増え、2017年には、ほとんどのギャラクシー製品がAMOLEDパネルを搭載し、3億台になる。
l 次世代のギャラクシー製品は、2017年には折れ曲がるフレキシブルAMOLEDパネルが実装できる設計で、財布のようにディスプレイが開くような製品の発売が計画されている。解像度は800ppiと予想される。2019年には、このようなフレキシブル有機ELは、約2.8億台、平面型有機ELは、約1.2億台になる見通しである。さらに、ゲーム市場、ドローン対応、アダルトビデオ、ミニ映画館などへ対応したコンテンツ向けに、VR機能の開発を進める。
サムスンディスプレイ製品の供給の多様化
l サムスンディスプレイは、2015年第3四半期の業績発表会で、サムスングループ以外の外部取引先を30%に拡大する計画を明らかにした。これにより、スマートフォン市場の成長鈍化が予想された第3四半期にもかかわらず、取引先の新製品発売と供給先企業数の拡張によって、売上高を前四半期比で13%の成長の実績を遂げた。特に中国スマートフォンメーカからAMOLEDパネルを搭載した新製品がリリースされ、世界の携帯電話市場で有機EL搭載機種の比率が増えたと分析される。サムスンから中国への有機ELパネルの輸出は、2015年に7,000万台、2016年に1億3,000万台と推定されている。
l 2015年のサムスン以外への顧客の多様化は、サムスンディスプレイの業績を再び成長モードに乗せ、AMOLEDパネルのモバイルディスプレイ市場でのシェアを拡大した。アップル向けの輸出は、2017年に1億個と推定される。
今後の工場投資
今後の世界の有機ELディスプレイの工場投資の計画は、以下のような内容と予想される。