パノラミックHUDの未来、マイクロLEDが牽引


2025年7月17日 UBIリサーチ

 

車載ディスプレイ技術が急速に進化する中で、ドライバーの前方視野に様々な情報を表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)は、次第に車内の必須インターフェースとして定着しつつあります。近年では、速度やナビゲーション情報だけでなく、拡張現実(AR)コンテンツまで投影できるパノラミックHUD(PHUD)が登場し、技術的進歩を示しています。この中で、PHUDの実現における中核技術としてMicro-LEDが浮上しています。

 

PHUDは車両のフロントガラス(ウィンドシールド)全体、またはその大部分に情報を投影する方式であり、広い視野角、高解像度、高い輝度が要求されます。現時点で商用化に最も近い構造はブラックシート反射方式です。これはウィンドシールド下部の黒色帯域(ブラックバンド)を反射面として利用する方法で、光学系が単純でコスト負担が少ないため、自動車メーカーが急速に採用しています。しかしこの方式は、ドライバーの視野を妨げないように投影される画像の高さが制限され、実際にはおおよそ縦3〜6cm程度の狭い範囲しか利用できません。

 

BMW Panoramic Vision
BMW Panoramic Vision

 

より高級感と没入感のある表示を目指し、一部の高級車では透明反射方式を採用しています。この方式は、ウィンドシールド内部に多層光学フィルムを挿入したり、特殊構造を適用したりして、ブラックバンドがない透明領域でも画像を反射できるよう設計されています。没入感やデザイン面では利点がありますが、光学設計が複雑でコストが高く、反射効率が低いため、高輝度ディスプレイが必須です。

 

こうした構造的・技術的な限界を同時に克服できる解決策こそがMicro-LEDです。Micro-LEDはピクセル単位で自発光する構造であり、1,000ニット以上の明るさに加え、30,000〜50,000ニット級の超高輝度表現も可能で、同時に電力効率にも優れています。

 

実際、SID 2025ではAUO、BOE、CSOTなど主要なディスプレイメーカーが多様なMicro-LEDベースのPHUD試作品を多数公開しました。

・BOEは6.2インチMicro-LED HUDにおいて0.2mm以下のピクセルピッチと30,000ニット(知覚輝度15,000ニット)の明るさを実現。

・CSOTは14.3インチ大型Micro-LED PHUDで45,000ニット(知覚輝度12,000ニット)のピーク輝度と広い視野角を確保。

・AUOも知覚輝度12,000ニットの13インチ高輝度PHUDを公開しました。

 

AUO 13” PHUD(12,000ニット)
AUO 13” PHUD(12,000ニット)
BOE 6.2” PHUD(15,000ニット)
BOE 6.2” PHUD(15,000ニット)
TCL CSOT 14.3” PHUD(12,000ニット)
TCL CSOT 14.3” PHUD(12,000ニット)

 

Micro-LEDは単なるディスプレイ性能の向上にとどまらず、パノラミックHUDの構造や実装方法そのものを根本的に変革しています。限られた反射面の制約を克服し、多様な曲面ガラス上に高輝度・高解像度の画像を投影できるうえ、透明度やデザインの自由度まで満たす、ほぼ唯一の技術としての地位を確立しています。

 

パノラミックHUDの商用化が現実に近づく今、その中心にはMicro-LEDがあります。自動車の視界とインターフェースの未来は、Micro-LEDの上に築かれるでしょう。