発行日:2025年10月20日 |出典:電子新聞(etnews)
■ サムスンディスプレイ、8.6世代にLTPO TFTの導入を検討
サムスンディスプレイは、8.6世代有機EL(OLED)生産ラインにおいて、低温多結晶酸化物(LTPO)薄膜トランジスタ(TFT)の導入を進めている。これまで同社は酸化物(オキサイド)TFTのみを構築していたが、これに加えてLTPO方式を新たに採用する方向で検討中であり、その技術的な変化に業界の注目が集まっている。
業界関係者によると、サムスンディスプレイは現在LTPO TFT専用の製造装置ラインの構築を検討しており、導入に必要な主要製造装置の導入について協議を進めているという。この計画に詳しい関係者は「サムスンディスプレイが8.6世代向けLTPO製造装置を探しており、来年(2026年)第4四半期の導入を目標としている」と述べた。
導入対象となるのはエキシマレーザーアニール(ELA)装置である。ELAはLTPO TFTを実現するために不可欠な製造装置であり、電子移動度が高い低温多結晶シリコン(LTPS)と、リーク電流が少ない酸化物の特性を組み合わせてLTPOを形成する際に使用されるレーザー技術である。
サムスンディスプレイが8.6世代製造プロセスにLTPO TFTを準備するのは初めての試みだ。同社はこれまで酸化物TFTのみで、月産約7,500枚(7.5K)規模のガラス基板をもとにテスト稼働を行ってきた。今回、酸化物方式に加えLTPOを導入しようとしている点は従来の路線からの転換となり、その背景に注目が集まっている。
■ 市場対応と競合企業への意識
まず、市場対応力の強化が導入の主な理由とみられている。酸化物方式とLTPO方式の2種類の技術を併用することで、顧客の多様なニーズに対応できる体制を整える狙いだ。
LTPOは近年、有機ELディスプレイの主流技術として急速に広がっている。低消費電力である酸化物TFTと、高速な電子移動による高性能を実現できるLTPSの長所を組み合わせた構造であり、モバイル機器やIT製品向けに採用が拡大している。
サムスンディスプレイは8.6世代でもLTPOを備えることで、ノートPCやモニター市場での需要に対応しようとしているとみられる。
一方、競合各社の技術動向もサムスンの判断に影響を与えたとの見方もある。BOE(京东方)、Visionox(维信诺)、CSOT(華星光電)などの中国ディスプレイメーカーは、サムスンより遅れて8.6世代への投資を決定したが、いずれもLTPO方式を選択している。
ディスプレイ業界の専門家は次のように分析する。「サムスンディスプレイだけが唯一、酸化物方式を採用していた。主要顧客の中にはサムスンにLTPOパネルの供給を求めた企業もある可能性が高い」と語った。
酸化物TFTは、ELAやイオン注入装置を必要としないため製造コストを低減できるが、電子移動度はLTPOの10分の1程度とされており、性能面ではLTPOが優れている。
■ Apple向けMacBook Pro用OLEDも視野に
サムスンディスプレイは、8.6世代生産ラインで2026年下半期発売予定のApple MacBook Pro向け酸化物TFT OLEDパネルを生産するとみられている。このパネルを供給できるのは現時点でサムスンのみであり、Appleへの独占供給が予想される。
また、同社がAppleに対して追加的にLTPO TFTパネルを供給するかどうかも、今後の焦点となっている。