SemiDisplayView 2025-08-21
サムスン電子は、メルクの特許管理会社から量子ドット(QD)関連の米国特許53件を取得しました。これらの特許は、同社が現在量産している高級液晶ディスプレイ(LCD)製品、QLEDテレビ、QD-OLEDテレビに加え、まだ開発段階にある自発光型QDディスプレイ技術(QD-EL)にも活用される見込みです。
メルクからの特許取得の経緯
サムスン電子は、2025年2月に11件、7月に42件の特許を取得し、合計53件となりました。サムスンディスプレイも2022~2024年にかけて5件の米国特許を取得していますが、サムスン電子がメルクからQD特許を取得するのは今回が初めてです。さらに7月には、韓国で登録されたQD特許15件もメルクから取得しています。
今回の取得特許にはカドミウムフリー量子ドットに関する技術も含まれています。サムスンはこれまでも、環境規制基準以下の有害物質含有を実現する「無カドミウムQD」を強調してきました。QDは主にカドミウムやインジウムで構成されますが、一部の中国メーカーは依然としてカドミウム系QDを採用しています。
QD関連技術の位置づけ
サムスンのQD特許は、現在販売中のQLEDおよびQD-OLEDテレビに活用可能です。
・QDEF技術(QDフィルム方式):高級LCDテレビやQLEDテレビに採用。
・QDCC技術(QDカラーフィルター方式):QD-OLEDテレビに採用。
・QD-EL技術(自発光型QD):開発中。電流を流すと直接発光し色を表示するが、商業化は未達。
QLEDテレビはLEDを光源とし、QDフィルムをLCDパネルに組み合わせることで色再現性を強化。QD-OLEDテレビは青色OLEDを光源にし、QDカラーフィルターで色変換を行います。今後はQD-EL(自発光型量子ドットディスプレイ)への応用が期待されます。
中国勢への対抗とQNEDへの挑戦
今回の特許取得は、中国メーカーへの対抗策とも見られています。中国勢はMini LEDを光源にしたQLEDテレビや超大型LCDテレビで世界シェアを拡大中です。
サムスンは当初、QD-OLEDからQNEDへの移行を計画していました。QNEDはナノ棒状の青色LEDを光源とし、QDカラーフィルターで色を表現する方式で、現在はサムスンディスプレイが開発を主導。しかし研究開発は難航しており、QD技術の中核研究はサムスン総合技術院が担当、サムスンディスプレイと連携しています。
なおサムスンは2016~2017年にQD Visionからも148件の米国特許を取得しており、QD関連特許の積み上げを進めています。
QDフィルム構造の簡素化にも挑戦
サムスン電子は現在、韓国・ハンソン化学と共同でQDフィルム構造の簡略化を進めています。従来のQDフィルムは、「バリア膜 – PET – QD層 – PET – バリア膜」という5層構造でしたが、新開発品ではバリア膜を省き「PET – QD層 – PET」の3層構造としています。
課題は、バリア膜が担っていた水分・酸素からのQD層保護をどう代替するか。バリア膜はQDフィルムの製造コストの約40%を占めており、除去できれば大幅なコスト削減が可能です。現在このバリア膜は日本の大日本印刷(DNP)が独占供給しています。