2025年8月4日 The Elec
AppleがiPhoneにタンデム構造の有機EL(OLED)を採用する案を検討していることが確認された。
業界関係者によると、LGディスプレイは昨年末にAppleへ「シンプルファイド・タンデムOLED」を提案し、その後AppleはSamsung Displayにも同技術について問い合わせを行ったという。
Appleは製品の量産計画を立ててから約2年間の開発期間を経て製品を発売する。現在、AppleがLGディスプレイやSamsung DisplayとiPhone用タンデムOLEDの採用を正式に決定し、開発に着手しているわけではないため、実際の適用は2028年以降になる見通しだ。
タンデム構造のOLEDとは、発光層を2層以上重ねて構成された製品を指す。タンデムOLEDを用いると発光効率が向上し、消費電力を削減できる。同じ電力でより明るい光を得られるため、バッテリー持続時間も延ばせるという利点がある。
現在のiPhoneのOLEDは、赤(R)・緑(G)・青(B)のサブピクセルを1層に蒸着するシングルスタック方式を使用している。Appleが今回まず検討しているiPhone用タンデムOLEDは、B(青)だけを2層に重ね、RとGは1層のままにする方式である。この方式は業界内で「シンプルファイド(簡略化)タンデム」と呼ばれている。
「シンプルファイド」という呼称は、RGBすべてのサブピクセルを2層に積む一般的な「ツー・タンデム方式」との比較から来ている。Appleが昨年初めて発売したOLED iPad(タブレット)パネルは、RGBすべてを2層構造にしたツー・タンデムOLEDを採用していた。iPadはスマートフォンよりも買い替え周期が長く、OLED iPadはハイエンドモデルであるため、ツー・タンデムOLEDが選ばれた。
注目すべき点は、Apple、LGディスプレイ、Samsung Displayの三者の立場の違いである。
LGディスプレイがAppleにシンプルファイド・タンデムを提案したのは、タンデム技術において自社が他社より先行していると判断している結果とみられる。実際、LGディスプレイは数年前にもAppleに対して、iPhoneにタンデムOLEDを適用する案を提案していた。当時、Appleは「iPhoneにはタンデムOLEDを適用する計画はなく、IT製品への適用を検討する」と答えたとされる。その後、Appleが昨年発売したOLED iPadにおいて、初めてツー・タンデムOLEDが採用された。
また、昨年Appleに納品されたiPad用OLEDパネルの供給量も、LGディスプレイがSamsung Displayを上回っていた。さらに、LGディスプレイは自動車向けOLEDもツー・タンデム方式で製造している。
AppleはLGディスプレイの提案に興味を示しつつも、Samsung DisplayやBOEなど他のパネルメーカーも準備が整っていなければ、量産採用を検討しにくいと判断したとみられる。あるメーカーが特定製品を単独供給する形になれば、Appleにとって価格交渉力が低下するためだ。
一方、Samsung DisplayのタンデムOLED技術の開発は、LGディスプレイよりも後発である。ただしSamsung Displayも昨年、OLED iPad用パネルを納品しており、今年からの新規自動車OLEDプロジェクトではすべてツー・タンデム方式で開発を進めている。過去にSamsung Displayが量産した自動車向けOLEDの多くは、シングルスタック方式だった。
なお、iPhoneへのタンデムOLEDの適用について、LGディスプレイおよびSamsung Displayの関係者はそれぞれ、「確認できる内容はない」「お答えできない」とコメントしている。