IT向け有機ELパネルで8.6世代化競争が激化、FMM方式が先行、FMMレス陣営も急加速


2025年10月28日 出典:TrendForce集邦

 

韓国勢が先行、各国で8.6世代有機EL投資が本格化

TCL華星光電(TCL CSOT)がt8プロジェクトの8.6世代有機EL生産ラインの着工を正式に発表したことを受け、世界のIT向け有機ELパネル産業は「大世代投資戦国時代」に突入した。市場調査会社TrendForce集邦コンサルティングによると、韓国のサムスンディスプレイ(SDC)がこの分野の先行者であり、最も早く8.6世代有機ELラインへの投資を開始した。その後、中国勢のBOE(京东方)、Visionox(维信诺)、TCL華星光電も相次いで同様の投資計画を打ち出している。

 

サムスンディスプレイは2023年に8.6世代有機EL製造ラインへの投資計画を公表。採用しているのは従来型FMM(精密金属マスク)蒸着プロセスであり、ディスプレイ寿命を延ばすためにタンデムOLED技術の導入も進めている。すでに主要製造装置の設置が完了しており、Apple(アップル)からも高い評価を得た。2026年発表予定の新型MacBook Proシリーズに採用される見通しで、最短で2026年第2四半期から量産を開始する可能性がある。

 

 

中国メーカーも参戦、FMMレス技術で差別化狙う

これに続き、BOEも2023年末に8.6世代有機ELラインへの投資を表明。こちらもFMM蒸着方式とタンデムOLED構成を採用している。製造装置の導入は2025年第2四半期から順次完了しており、2026年前半に試運転を開始する予定だ。BOEはすでに第6世代ラインでノートPC向け有機ELパネルを中国および台湾メーカーに供給しており、8.6世代ラインの本格量産後も安定した販売先を確保している。

 

一方、VisionoxとTCL華星光電は精密金属マスクレス(FMM-free)陣営として開発を進めている。Visionoxは2023年に独自技術ViP(Visionox intelligent Pixelization)を発表。従来のFMM方式よりも高いPPI(画素密度)と開口率を実現できるという。Visionoxは2024年第2四半期に8.6世代有機ELラインの建設計画を公表し、2025年第4四半期に工場建設を完了、2027年第1四半期から量産を開始する計画である。

 

TCL華星光電はインクジェット印刷(IJP)方式を採用。製造プロセスがより簡素で、材料損耗を約30%削減できるとされる。8.6世代有機ELラインの起工式もすでに完了しており、2027年第4四半期に本格稼働を目指している。

 

TrendForceは、こうしたFMM方式とFMMレス方式の両陣営による大世代ライン投資が急速に拡大していると分析。FMM陣営は既存顧客との関係や生産経験で優位に立つ一方、ViPやIJPといった新技術を採用するFMMレス陣営はまだ歩留まりや材料開発の課題を抱えている。しかし、市場からの関心が非常に高いため、今後FMM陣営に追いつく可能性も十分にあると結論づけている。