2025年8月15日 Omdia
陽極プロセスとデュアルチップ構造がOLEDoSディスプレイメーカーに背面基板設計から利益をもたらす
シリコン基板OLED(OLEDoS)ディスプレイの製造は、画素駆動回路を備えたシリコンウェーハから始まります。これまで、中国の多くのシリコン基板OLEDディスプレイメーカーは、チップ設計能力の不足やウェーハファウンドリとの関係が限定的だったため、第三者のIC設計会社からバックプレーンウェーハを購入していました。
しかし、ほとんどのウェーハファウンドリは標準的な半導体プロセスの中にOLEDoS製品に必要な陽極金属層の成膜工程を含んでおらず、顧客が追加費用を支払わない限りこの工程を提供しません。
そのため、SeeYA、BOE、SidTek などのOLEDoSディスプレイメーカーは、自ら半導体生産能力を構築し、スクリーン製造に不可欠な陽極プロセスを実現しなければなりませんでした。また、レイアウト設計や製造、プロセス最適化を行うために半導体分野の専門人材を採用する必要がありました。陽極プロセスという難関は、メーカーに半導体レベルのクリーンルーム運用、薄膜成膜、フォトリソグラフィ技術の習得を迫り、結果としてディスプレイ製造と半導体製造の境界を大きく曖昧にしました。
近年、近眼ディスプレイ(近距離用表示)業界の成長が予想を下回り続けていることや、収益圧力に加え、上記の技術的背景から、OLEDoSメーカーにはコスト削減と効率向上の強いプレッシャーがかかっています。これが、サプライチェーン上流にまで踏み込み、垂直統合によってコスト削減を図ろうとする動きにつながっています。
デュアルチップ構造への移行
一方で、主流のOLEDoS製品は「デュアルチップ構造」へと移行しつつあります。つまり、バックプレーンチップ(BPIC)は画素回路のみを担当し、タイミングコントローラ(TCON)などの駆動回路は別のドライバチップにまとめる方式です。
この方式によって、OLEDoS後工程で発生するBPIC不良が全体コストに与える影響を大幅に軽減できます。さらに、デュアルチップ化によりバックプレーンチップの駆動回路設計は大幅に簡素化され、この流れはパネルメーカーにBPIC設計やファウンドリとの協業経験を積ませるきっかけにもなっています。
また、この方式はドライバIC設計会社にとっても有利です。ディスプレイごとに異なる解像度に合わせたカスタム設計が不要となり、汎用的なドライバICの開発に集中できるからです。
一方で、専業のOLEDoSチップ設計会社や関連事業部門にとっては打撃となっています。初期にOLEDoSチップ開発へ投資した企業の多くは、現在その成果をノウハウとして製品開発に生かしていますが、これは同時にパネルメーカーがチップ設計領域に参入する上で最大のハードルにもなっています。
中国国内の最新動向
現在、中国国内では以下のような動きが見られます。
・BOE はNexchip(晶合集成)と協力してBPICを開発しており、設計作業はBOE自身が担当。
・SeeYA はさらに踏み込み、自社でBPICを設計するだけでなく、資本関係の深い iRay(奕瑞) にウェーハ製造を委託。
・SidTek も複数の展示会で自社設計のOLEDoS製品を公開。
これらの取り組みは業界の強靭性と柔軟性を高めるだけでなく、さらなる垂直統合の始まりを示唆している可能性があります。