IT向けのOLED製造の動向


Visionox(ビジョノックス)の進捗と課題

 

ViP技術と外部環境の影響

Visionoxが注力する「ViP(Mask-less OLED)」技術は、FMM方式と比較して開口率・解像度・効率面で優位性があり、次世代OLEDのキーテクノロジーとして掲げられています。ただし、当初予想されていたほどに歩留まりが安定せず、第1期のV5ライン(8.6世代)の設置においては、当初FMM方式を併用するデュアル戦略として検討されていたものの、低歩留まりの実情から当面はViP方式のみで進める方針に切り替えられたとの報道もあります。現在、VisionoxはV5ラインにおいてViPとFMMを併用する――まずViP(7.5K能力分)、その後FMMを導入――という双軌道戦略を採用する予定です。

 

本格始動に向けたインフラと特許戦略

V5生産ラインは現在、中国安徽省・合肥市で着工中で、すでに「主工場の上棟」などが完了し、本格的な設備導入フェーズに進みつつあります。並行して、日本のSemiconductor Energy Laboratory(SEL)との特許ライセンス提携を締結。これにより、Mask-less OLEDのライセンステクノロジーに関わる特許リスクを低減し、高精細パネル設計での競争力強化を図る動きが鮮明になっています。また、クリティカルとされる装置(OLED蒸着装置、露光装置、イオン注入装置、エキシマレーザーアニーリング装置など)の発注も進行中で、V5ラインの本投資承認に向けた準備が着々と進行しています。

 

外的要因と投資環境

なお、米中関係や貿易政策(関税措置)による不確実性といった外部要因も依然として存在しますが、現在の報道ではその具体的な影響よりも、Visionox側の技術的・資金的布陣の整備がより重要な注目点となっています。Visionoxによる自社技術確立への戦略的見直しは、内部の資金手配(議会・地方自治体支援含む)と、技術面での特許補強という二方面から進められています。

 

サムスンディスプレイのベトナム投資計画

 

投資拡大の背景と規模

サムスンディスプレイは、ベトナム北部・バクニン省に新たなOLEDモジュール生産拠点を構築するため、18億米ドル(約2兆4,000億ウォン)を投資する計画を発表しました。これにより、バクニン省における累積投資額は65億ドルから83億ドルへと増加します。投資対象は自動車用・IT機器用のOLEDディスプレイのバックエンド工程(モジュール組立)で、スマートフォン以外の市場拡大への布石となります。また、ベトナム・バクニンが将来的に「サムスンの世界最大のディスプレイモジュール生産拠点」になるとの政府の認識も確認されています。

 

設備導入時期と生産能力

新工場は2026年に稼働開始予定で、年間およそ1,000万枚の8.6世代OLEDパネルを後加工・組立する能力を目指しています。サムスンディスプレイの韓国拠点(牙山など)ではOLEDパネルの前工程を担い、ベトナムではその組立を行うことで、供給チェーンの分散と効率化を図る設計です。

 

戦略的意義

投資は米中貿易摩擦などの地政学的リスクを回避しつつ、生産拠点の多極化を進める意図もあります。さらに、ラップトップやタブレット向けOLEDの需要増を先取りし、次世代ディスプレイ市場での競争力を強化する狙いも明確です。

 

酸化物TFT技術とLTPO方式の競争

サムスンディスプレイは、第8世代OLEDラインに酸化物TFTを採用し、低消費電力性能を強調しています。一方、BOEはLTPO TFT方式を採用し、高速駆動性能を重視しています。このような技術選択の違いが、顧客企業の製品戦略やサプライチェーン管理に影響を与える可能性があります。顧客側は各メーカーごとに異なる技術仕様に対応する必要があり、完成品のモデルごとにパネル供給先を選定する課題が浮上しています。

 

主要メーカーの動向

現在、サムスンディスプレイとBOEの2社がIT向け第8世代OLED投資を進めていますが、それぞれ蒸着装置の供給元も異なっています。サムスンディスプレイはキヤノントッキの装置を採用しており、BOEはSUNICシステムを選定しました。LGディスプレイはまだ8世代OLEDの投資決定を行っていませんが、今後の動向が注目されます。

 

まとめ

ビジョノックス、サムスンディスプレイ、BOEなど主要パネルメーカーは、それぞれ異なる技術や投資戦略を進めています。特に新技術の量産性や外的要因の影響が大きな変数となる中、各企業が顧客や地元政府との関係を強化しながら市場シェアを拡大するための競争が激化しています。