JMInsights集摩コンサルティング|2025年8月29日
2025年上半期、世界のLEDディスプレイ市場は大きな変革期を迎えている。一方では価格競争と需要低迷という二重の圧力に直面しながら、他方ではMini/Micro LEDやAI技術の進展が新たな成長機会を生み出し、業界全体が「二極化」の様相を強めている。
大手6社の業績を見ると、その対照は一層際立つ。洲明科技は売上高365.8億元で前年同期比7.38%増、純利益は1.21億元と20.61%の成長を達成した。利亜徳は売上高351億元と3.33%の微減にとどまったものの、純利益は34.03%増の1.72億元と大幅な改善を示した。艾比森も売上高181.9億元(1.15%増)に対し、純利益は1.16億元で30.84%の成長を記録している。
一方、中小規模企業は苦戦が目立つ。聯建光電は売上高が24.2億元と前年同期比18.91%減少し、純利益は依然として赤字(217.11万元の損失)を計上した。雷曼光電は売上高56.4億元で14.23%の減少、純利益は485.92万元と35.89%の減少に転じた。奥拓電子も売上高31.3億元と6.19%減少したが、純利益は832万元で前年同期比251.82%の増加を示した。
業界全体を俯瞰すると、国際的な経済環境の不透明さが背景にある。米国が4月から仕掛けた「関税戦争」によって世界のサプライチェーンは大きく混乱し、欧米市場の消費力も大幅に削がれた。加えて、中国国内のLED市場では競争がさらに激化。過去の過剰な設備投資が市場に供給を押し出す一方で、需要の伸びは鈍化し、結果として稼働率の低下や価格下落が加速している。さらに、金・銀・銅などの金属材料やPCB基板といった主要部材の価格上昇が企業収益を圧迫している。
このような厳しい状況下でも、大手企業は技術革新とグローバル展開によって逆風を乗り越えつつある。洲明科技、利亜徳、艾比森、奥拓電子はいずれも純利益の伸び率が20%を超え、売上高の伸びを上回る水準を示した。これは収益構造の質が改善している証左といえる。
技術競争:Mini/Micro LEDがカギ
業界の競争軸はすでに新世代技術に移っている。特にMini/Micro LEDが注目を集めており、洲明科技は上半期に50億元を超える売上を計上し、販売面積も倍増した。同社は0202、0404、1010の3規格でMIP技術を実用化し、裸眼で3D効果を体感できる「MIP全息インビジブルスクリーン」を発表している。利亜徳も4月に無基板型Micro LED技術「Hi-Micro」を発表し、6億元を超える新規受注を獲得するなど高い市場潜在力を示した。雷曼光電は省エネ性と低発熱性を備えた「PSE冷却スクリーン」で国際的なデザイン賞を受賞している。
さらに、AIの活用も新たな成長源となっている。洲明科技はAIアルゴリズムや国産OSへの適応、画質強化などを進め、AIエージェントプラットフォームを構築。複数の主流モデルを統合し、AI搭載デバイスやホログラム商品を次々に市場に投入している。利亜徳も空間計算と動作捕捉技術を軸に、ロボット分野への応用を進め、業界トップクラスの動作データベースを活用して新たな価値を創出している。
市場戦略:グローバル展開と差別化
市場戦略の面では、各社が「グローバル化」と「差別化」の両立を模索している。利亜徳は海外売上が初めて国内を上回り、総収益の半分を占めるまでに成長した。洲明科技は国内で20%近い成長を遂げる一方、海外市場では微増にとどまった。雷曼光電は国際顧客基盤の拡大に成功し、新規顧客の貢献度が127%増加した。
差別化の取り組みも進む。雷曼光電は超大型家庭用ディスプレイや文旅分野での没入型ソリューションを推進し、洲明科技は保有する1.5万点以上のデジタル資産を国家級のデータ取引プラットフォームに接続、事業モデルを「コンテンツ制作」から「資産取引」へとシフトさせている。
今後の展望:イノベーションとエコシステム共創
今後の展望として、業界は「イノベーションによる成長」と「エコシステムの共創」が中心になるとみられる。洲明科技は伝統文化のデジタル資産化に向けて浙江大学と提携し、AIを活用した多モーダル大規模モデルの開発を進めている。利亜徳も研究開発費を継続的に増やし、2025年上半期だけで1.81億元を投じた。これらの投資は技術力を高めるだけでなく、収益力や競争力の強化につながっている。
実際、洲明科技は71.46%の純利益増を実現し、利亜徳も純利益率を大幅に改善した。国内市場の底堅い需要と、海外市場でのシェア拡大が同時進行するなか、中国企業はグローバル市場で確実に存在感を高めている。技術競争の舞台は単なる表示技術を超え、デジタル資産、ロボット、AI運用といった新たな領域に広がっており、LEDディスプレイ産業の価値は再定義されつつある。