2025年9月12日/ Semi Display View
9月12日、TCL科技グループは、子会社のTCL華星が広州市人民政府、広州経済技術開発区管理委員会と共同で「t8プロジェクト」と呼ばれる第8.6世代印刷OLEDディスプレイパネル生産ラインを建設する協定を締結したと発表した。計画では、2290mm×2620mmサイズのガラス基板を月2万2500枚処理可能な能力を持ち、主にタブレット、ノートPC、モニターなどの製品向けに展開される予定で、総投資額は約295億元に上る。これは従来の蒸着方式の約半分の投資規模にあたる。
印刷OLED技術は、インクジェットの高精度噴射ヘッドで液状の発光材料を基板に精密に塗布し、乾燥・硬化させて画素を形成する製造方法であり、低コストかつ高効率で注目されている。
TCL華星の技術蓄積と市場展望
TCL華星は10年以上にわたってOLED分野の研究・開発を行い、量産技術と主要特許を確立してきた。武漢にあるG5.5世代印刷OLED生産ラインは2024年11月から量産と出荷を開始しており、生産能力は月3000枚から9000枚への増強が進行中だ。製造工程や効率、製品品質も継続的に改善されている。
一方、世界の新型ディスプレイ市場は近年安定期に入り、折りたたみ画面や車載ディスプレイ、ウェアラブル機器の需要増が新たな成長エンジンになっている。Omdiaによると、2024年の世界AMOLEDパネル出荷量は10.1億枚(シェア27%)で、2030年には13.3億枚(シェア35%)を超える見通しだ。特にIT、車載、デスクトップ分野など中・大型ディスプレイでの成長が著しく、2030年にはノートPC年平均成長率33%、車載27%、デスクトップ型ディスプレイ19%と予測されている。
印刷OLEDは高い色再現性や高解像度、材料利用効率の高さ、省電力性、低投資・低製造コストなどの強みを持ち、小型から大型まで幅広く対応できる技術として、今後の主流化が期待される。
インクジェット技術で世界をリードする戦略拠点に
今回のt8プロジェクトで用いられる技術はTCL華星独自のものであり、中国の新型ディスプレイ産業が世界市場で戦略的な優位を確保するための重要な一歩と位置づけられている。TCL華星はすでに世界規模での特許網を構築し、OLED関連で9700件以上、そのうち印刷OLED関連だけで1200件以上を保有し、業界トップを誇る。設計・材料・プロセス・装置の全領域をカバーしており、強固な技術的障壁を築いている。
同社は2013年に印刷OLED研究に着手し、2024年のG5.5世代量産、そして今回の次世代ライン建設に至るまで十数年にわたり自主開発と人材育成を続け、技術革新を主導してきた。印刷OLEDは中国企業が世界に先駆けて商用化した初のディスプレイ技術であり、中国のディスプレイ産業が「追随」から「先導」へと転換した象徴的な成果ともいえる。
公告によると、t8プロジェクトは2025年11月に着工予定で、世界初のインクジェット印刷OLED生産ラインとして、海外勢が優位に立つ次世代AMOLED分野に挑戦し、新しい技術のリーダーとなることが期待されている。