サムスン、10年ぶりにテレビ事業を全面診断、中国のMiniLED技術の台頭が市場勢力図を塗り替える


サムスン、テレビ事業で10年ぶりの全面診断へ

世界のテレビ市場が大きな転換期を迎える中、サムスン電子は10年ぶりにテレビ事業の経営診断を再開した。中国メーカーによるMiniLED分野での急速な台頭と、自社の業績急落がその背景にある。

 

2025年9月、サムスン電子のテレビ事業を担うVD事業部は全面的な経営診断を実施。これは2015年以来初めてとなる。直接のきっかけは2025年第2四半期の業績急落で、営業利益は前年同期比56%減の4.6兆ウォン(約33.7億ドル)と6四半期ぶりの低水準に陥った。VD事業部も営業利益が前年同期比46%減の1130億ウォン(約6億元)に落ち込む見通しだ。

 

在庫急増でサムスンに短期危機

2025年4月末時点でサムスン電子のパネル在庫回転期間は19週に達し、業界の安全ライン8〜10週を大幅に超えた。第2四半期には面板調達量を急減し、LCDパネルの調達量は第1四半期から一気に830万枚へと落ち込み、第3四半期にもさらなる削減を予定している。

 

「国補」政策や米国関税上乗せ予想を背景に年初に先行調達した在庫が、第2四半期の市場需要減速で重荷となった。北米や欧州市場の見通しも依然として厳しく、テレビ事業は緊急管理体制へ移行。社員には出張費削減や賞与カット(上半期支給率50%→37.5%)などが求められている。

 

中国MiniLEDの台頭で市場構造が激変

サムスンが抱える課題は在庫だけではない。市場構造そのものが変わろうとしている。調査会社Omdiaによると、サムスンは2024年まで世界テレビ市場で28.3%のシェアを持ち首位を維持してきたが、2025年には中国ブランドがMiniLED+超大画面技術を武器に高級市場を席巻している。

 

2025年第1四半期、ハイセンスの高級テレビ出荷シェアは14%から20%へ、TCLは13%から19%へ拡大し、LGを抜いて世界トップ3入り。サムスンの高級テレビシェアは39%から28%に落ち、LGも23%から16%へ低下した。

 

中国本土のパネルメーカーは世界シェア68.3%を握り、BOE(京东方)、華星光電などが価格を下げながらも高速な技術アップデートを進めている。

 

MiniLEDが有機EL(OLED)を追い越す構図

2025年、高級テレビ市場ではMiniLEDが有機EL(有機発光ダイオード=有機EL)を本格的に追い抜きつつある。MiniLEDテレビの出荷量は前年比50%増の1156万台と予測される一方、有機ELテレビは679万台にとどまり、伸び率は7.1%に過ぎない。

 

従来型の白色MiniLEDに対し、RGB-MiniLEDは赤・緑・青の独立光源を使い、精密なコントラスト制御や高輝度、広色域を実現。TCLは「SQD-MiniLED」と「RGB-MiniLED」の二本柱で高級から中上級までをカバーし、最新フラッグシップ「X11L」では控光・色域・輝度の大幅な進化を実現した。

 

ハイセンスは独自のAI画質チップ「H7」と高性能RGB-MiniLEDチップを組み合わせ、「光と色の同時制御」という業界課題を解決した。

 

サムスンのリスク分散戦略と今後の展望

競争圧力に対し、サムスンは供給網の再構築を急ぐ。2025年下半期にはBOE(京东方)から55〜100インチ対応のテレビパネル150万枚を調達し、2026年には年間300〜500万枚規模の長期契約復活も視野に入れる。

 

サムスンは単一サプライヤー依存率30〜35%以内を条件に、リベート条項や長期低価格契約でコスト優位を確保しようとしている。しかし、これにより中国側の利益率が5%以下に落ち込む可能性もあり、供給網の「綱渡り」が続く見通しだ。

 

世界テレビ出荷台数は2025年に前年比1.1%減の1億9571万台と予測され、米国の関税引き上げにより下期は小売価格上昇と需要減退が懸念される。MiniLEDは急拡大する一方、有機ELはコスト高で伸び悩み、特に超大型領域でRGB-MiniLEDが優位に立つ。

 

サムスンにとって今後は規模と利益、高級技術とコストの両立が課題となる。10年前にLGの有機ELに直面したサムスンが、今度は中国勢のMiniLEDに挑まれている構図だ。