中国で初の8.6世代有機EL用FMM露光装置が生産ラインに導入 ― AMOLED製造の新たな節目


2025年10月21日|出典:WitDisplay(引用元:cinno)

 

中国で初めて高世代FMM製造装置が稼働開始

浙江衆凌科技有限公司(以下、衆凌科技)は、中国で初のAMOLEDディスプレイ用第8.6世代FMM(Fine Metal Mask)露光装置が2025年10月20日午後、正式に生産ラインへ搬入・設置されたと発表した。この中核的な製造装置の導入により、中国は中・大サイズAMOLED向けFMM分野で「ゼロからの突破」を果たし、これまで国内に存在しなかった高世代FMMコア金型技術の空白を埋めることとなった。

 

FMM(精密金属マスク)は、有機EL蒸着工程で画素を形成するための「ピクセル用金型」にあたるもので、画面の解像度・歩留まり・表示品質を直接左右する要素である。第8.6世代FMMは、タブレット、ノートPC、車載ディスプレイなど中・大サイズ高級有機EL製品に対応する重要なコア部品だ。これまで世界では日本のDNP(大日本印刷)が唯一、高世代FMMの量産技術を独占していたが、今回の衆凌科技による装置導入によって、この構図が初めて打ち破られた。

 

Invar材料の国産化と高精度エッチング技術が鍵

衆凌科技が高世代FMM分野で先行できたのは、材料から製造、応用まで一貫した技術体系を自社内で確立しているためである。同社は現在、業界で唯一「Invar材料の完全国産化+FMM製造+最終製品応用検証」までを手掛ける企業であり、すでに国産Invar合金薄帯の量産化を実現している。厚さ20μmのFMM製品は、中国主要パネルメーカーによる検証を通過し、量産供給を開始。さらに小米(Xiaomi)「17 Pro Max」などの端末で採用された世界初の高PPI Real RGB有機ELディスプレイの実現を支えた。

 

今回導入された第8.6世代専用の露光装置は、同社の技術優位性をさらに拡大するもので、最大600mm幅の超大型エッチング対応と高精度位置決め制御が可能。これにより、中・大サイズFMMの微細開口および寸法精度を極めて高いレベルで制御でき、第8.6世代AMOLED生産ラインの蒸着工程に完全対応するという。

 

 

中国企業の第8.6世代ライン建設が加速

現在、AMOLEDの高世代ライン建設は加速しており、海外ではサムスンディスプレイの第8.6世代ラインが試験稼働を開始。中国国内でもBOE(京东方)やVisionox(维信诺)などの第8.6世代プロジェクトが相次いで建屋完成を迎え、華星光電(CSOT)も新たな投資を進めている。これにより、高精度FMMに対する市場需要は急速に拡大している。

 

衆凌科技は、「ウェアラブル・スマートフォン・車載・ノートPC」など多様な用途に対応できる厚さ20~30μmの全仕様FMM供給能力を備えた中国唯一のメーカーであり、今回の高世代装置導入は同社にとって生産力・技術力の両面強化を意味する。これにより、中国の高世代AMOLEDラインに対して安定かつ自主的なFMM供給体制を確立する見通しだ。

 

同社によれば、第8.6世代FMMプロジェクトの総投資額は1億元を超える。露光機のほか、エッチング装置や検査装置などの関連製造装置も、2025年第2~第3四半期にかけて順次導入・調整が進められている。ライン全体の連動試験は2025年第4四半期に完了予定で、稼働後は国内外の主要パネルメーカーの高世代需要を広くカバーすることが可能になる見込みである。

 

衆凌科技の徐華偉(シュー・ファウェイ)総経理は次のように述べている。「第8.6世代FMM露光装置の導入は、FMM国産化を進めてきた当社にとって極めて重要な一歩です。Invar材料の国産化による強みと、20μm以下の超薄FMM加工技術の蓄積を基盤に、高世代FMMの量産を早期に実現できると確信しています。今後もFMM事業に集中し、国産Invar材料による技術革新を進めることで、中国のAMOLED産業の『強靱なサプライチェーン構築』を支え、中国ディスプレイ産業が“パネル大国”から“コア治具強国”へ飛躍することに貢献していきます。」