2025年9月25日 UBI Research
今年の市場動向 ― 車載用有機ELが380万台規模に
車載用有機ELディスプレイ市場は、2025年におよそ380万台の出荷が見込まれており、2030年まで年平均成長率(CAGR)24%という高い成長が予測されている。ただし本格的な拡大は、その後の時期に訪れる可能性が高い。有機ELはスマートフォンやテレビ市場ですでに技術力を確立しているが、車載ディスプレイ分野ではようやく本格的に導入が始まった段階だからだ。
有機ELの強み ― 高画質・耐久性・デザイン自由度
車載用有機ELディスプレイの最大の強みは、深い黒表現、低反射率、優れた色再現性による高い視認性だ。さらに、注目を集めるタンデム構造の採用により、寿命の大幅延長と高温環境下での安定した信頼性を実現。長期間の使用が必須な自動車ディスプレイに最適とされる。
また、曲面・フォルダブル・スライダブル・ロールラブルなど自由な形状設計が可能で、車内インテリアの差別化にも貢献できる。このため、プレミアムブランド各社が有機EL採用を進め、自社デザインの独自性強化を図っている。加えて、サムスンディスプレイ(SDC)、BOE、ビジョノックス(Visionox)、TCL CSOTなど主要メーカーが8世代有機EL製造装置ラインへの投資を進め、生産基盤の拡大も期待されている。
価格と供給網 ― 普及を阻む課題
一方で、価格の高さは依然として大きなハードルだ。有機ELはLCDに比べ数倍高額で、大量普及を妨げる要因となっている。さらに供給網も限られており、LGディスプレイ、サムスンディスプレイ、BOEなど少数メーカーへの依存度が高く、安定供給の確保が難しい状況だ。
加えて、車載用市場への本格参入が2020年前後と比較的最近であるため、長期間の使用データが十分に蓄積されていない。自動車ディスプレイは過酷な環境下で10~15年以上の安定稼働が求められるため、耐久性検証は不可欠である。
2030年以降の展望 ― プレミアムから大衆化へ
こうした課題を踏まえ、完成車メーカーは主にプレミアム電気自動車やフラッグシップモデルから段階的に有機ELを採用している。全ラインアップへの拡大は2030年以降になる可能性が高いだろう。
2030年までは限定的な成長にとどまるものの、その後はコスト低減や量産体制構築、信頼性データの蓄積を背景に本格的な拡大が予想される。有機ELが車載ディスプレイ市場で差別化価値を示せれば、2030年以降の成長率は現行予測を上回る可能性もある。