CINNO Research、2025年7月4日
CINNO Research産業ニュースによると、韓国ITKEM社がコスダック上場の予備審査を通過し、IPOを目前に控える中、世界的なOLED材料メーカーである米Universal Display(UDC)から戦略投資を受けたことが明らかになりました。UDC(Universal Display Corporation)は、米ナスダックに上場するOLED材料開発の先端企業で、過去に海外企業へ投資する例は非常に少なく、今回のITKEMへの出資は極めて異例です。ITKEMの材料技術力と、韓国の製造業エコシステムが評価されたと見られています。
戦略投資の概要とITKEMの背景
2025年7月3日、韓国の投資銀行関係者によると、ITKEMは年初にUDCのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)部門「UDC Ventures」から戦略投資を受けたとのことです。
・UDCは1994年設立、OLED材料に関する3,300件超の特許を保有。
・一方のITKEMは2005年設立。医薬品原料(API)、ディスプレイ材料、電子材料の製造・開発に注力してきました。
しかし近年、ITKEMは業績不振に陥っていましたが、元コンサルタント・投資銀行出身の金仁圭(キム・インギュ)氏が2020年に企業を買収し、大手企業との供給チャネルを確立。事業再建を進めました。
金代表の取り組みと成長軌道
金代表は記者との対話でこう語っています:「20年にわたる蓄積で、500件以上の製造プロセスをデータベース化。熟練者のノウハウを会社の資産にしました」。2019年時点で売上195億ウォン、営業赤字58億ウォンという状況から、金代表は同社が非製薬企業ながらK-GMP認証を保有している点に注目し、グローバル製薬企業向けに安定供給が可能であると判断しました。
OLED材料事業へのシフト
買収後は以下のように事業戦略を再構築:
・安定収益を確保する医薬品事業を土台に
・高付加価値のOLED材料事業を育成
2024年には売上621億ウォン、営業利益64億ウォンを記録。OLED材料専用の新工場も忠北・槐山に建設され、年内に第2期工事完了予定です。
・OLED材料は、有機層に投入され発光効率、安定性、寿命を向上させる核心材料
・2020年末に研究開発開始 → 2024年に売上54億ウォンを達成
OLED材料と製造技術の優位性
・同社は少量多品種の材料製造に対応するため、反応釜の稼働率や人員を変数にして収益モデルを確立
・高付加価値のOLED材料は小型設備でも利益が確保可能
また、韓国原子力研究院との共同プロジェクトにより、輸入依存していた重水からの重水素水抽出技術を獲得。重水はOLEDの輝度・寿命向上や半導体工程にも応用可能で、素材の内製化と差別化を可能にします。
UDCとの連携強化と未来展望
今回の投資で、UDCは米国で開発した新材料の実証試験を韓国のITKEM工場で行う計画です。
・UDCは材料候補を開発する能力には長けているが、試験プラットフォームが不足
・韓国は製造力が世界最高水準で、UDCが注目
さらに、ITKEMが強みを持つ医薬品原料(API)や電子材料分野でも両社は今後の協力を模索。「ITKEMは、複数の産業に変革をもたらす材料科学の専門性を持っている」。― UDC Ventures パートナー ジョシュ・エプスタイン氏
IPO準備と今後の目標
・ITKEMはコスダック上場に向けて証券申告書を提出済
・厳しい上場審査を通過し、IPOに向けて機関投資家向け需要予測・一般公募へと進みます
金代表は最後にこう述べています:「今回のUDCからの出資とIPOを通じた資金調達をもとに、ITKEMは韓国を代表する先端素材企業へと変貌していきます」