HKC、スマートフォン向けOLEDの試験生産を開始…eLEAP基盤のG6ラインも推進


2025年7月25日 UBI Research

 

中国の代表的なディスプレイパネルメーカーであるHKCが、中小型OLED市場への本格進出に乗り出し、技術転換を加速させている。大型LCDを中心とした従来の事業構造から脱却し、フレキシブルOLEDを基盤とするスマートフォンおよびIT機器用パネル市場へと事業領域を拡大するとともに、次世代OLEDの核心技術である「マスクレス(Maskless)工程」の確保にも積極的に取り組んでいる。

 

HKCは現在、H6工場においてスマートフォン向けOLEDパネルの試験生産を2025年7月から開始する計画である。Phase1ラインは、かつてRoyole(ロヨール)が保有していた5.5世代の中古装置を基に構築されており、ガラス基板上にフレキシブル封止工程を適用したハイブリッド構造が採用されている。TFTバックプレーンの生産能力は月4,000枚規模であり、蒸着工程は1/4カット方式で運用される。

 

Phase2では、日本のSharpから移管された4.5世代のEVEN装置を使用する予定で、2026年4月までに修復が完了する見通しだ。また、HKCは研究所用のOLEDラインも別途保有しており、これも2025年9月までに修復を完了する計画である。

 

特に注目すべき点は、HKCがG6サイズのeLEAP OLED量産ラインを新たに構築しようとしていることである。当初は江蘇省崑山市が候補地として検討されたが、最近では政策環境の変化や地域政府との協力関係を考慮し、四川省綿陽市への移転の可能性が高まっているという。HKCはこのG6ラインについて、中国政府に対してeLEAP技術を基盤とした認可申請を進めており、FMM(ファインメタルマスク)方式も併せて検討されているが、FMM方式は承認の可能性が低いとされている。ライン構成については、日本のJDI(ジャパンディスプレイ)の中古装置の活用と技術支援を含む方向で検討されている。

 

このような動きは、中国のOLED産業が単なる生産能力の拡大を超えて、次世代OLED製造工程技術においてもグローバルな競争力を確保しようとする戦略の一環と見られる。

 

実際に、Visionox(ビジョノックス)は、中国の合肥市で建設中のG8.6 OLEDライン(V5)を通じて、マスクを使わずにピクセルを形成する「ViP(Visionox Intelligent Pixelization)」技術の量産基盤を整備している。

 

HKCが推進中のeLEAP基盤のG6 OLED投資も、こうした技術の潮流と一致している。日本のJDIが開発したeLEAP技術は、マスクを使わずに精密なピクセル形成が可能で、開口率の向上や寿命の延長に有利な構造を持っている。HKCは2023年にJDIとeLEAPの共同開発に関するMOUを締結しており、その後、大型OLEDファブでの協力は終了したものの、技術交流は引き続き維持されているとされている。

 

HKCとVisionoxがそれぞれeLEAPおよびViP基盤のマスクレスOLED技術の確保に注力しているという点は、中国が量産中心のディスプレイ産業構造を超え、次世代OLED製造技術まで主導しようとする意志を示す象徴的な流れと言える。これは技術的自立を超えて、グローバル市場における主導権確保を目指す戦略であり、今後の中小型OLED産業の地形にも影響を与えると予測される。