センサーOLEDディスプレイ: スマートフォンがヘルスケアプラットフォームに進化


2025年8月4日 UBIリサーチ

 

ディスプレイ技術が再び進化している。単に映像を出力する装置を超えて、生体信号を検知・分析し、ユーザーの健康状態まで診断できる段階に達している。サムスンディスプレイがSID 2025で発表した論文「Sensor OLED Display-Based Mobile Cardiovascular Health Monitor」(SID 2025 Digest, Paper 80-1)は、この変化を象徴する代表的な事例だ。この論文では、OLEDディスプレイに有機光ダイオード(OPD)を高解像度でピクセルレベルまで集積した「センサーOLED(Sensor OLED)」技術を紹介し、これにより、スマートフォンが心血管疾患モニターとデジタル治療プラットフォームに進化できる可能性を実証した。

 

従来は、生体データを測定するために別途のウェアラブル機器や独立型センサーを活用する必要があったが、センサーOLEDは、ディスプレイ自体が高解像度画像検出と光容積脈波(photoplethysmography、PPG)信号を同時に収集できるように設計されており、スマートフォンのディスプレイに指を置くだけの簡単な動作で様々な生体信号を迅速かつ正確に測定することができる。論文では、これにより左右の指のPPG信号を同時に測定し、脈波波形の特徴値を比較して90%の精度で心血管疾患を選別することができると明らかにした。この方式は、医療機関で使用するドップラーや血圧計と同様のレベルの精度を確保しながら、病院訪問や装備を着用せずに簡単に活用できるという点で高い利便性を提供する。

 

論文は特にカフレス(cuffless )血圧測定アルゴリズムに注目し、一つの指から得たPPG信号を活用するシングルポイント方式と、両手の指の信号を一緒に分析するダブルポイント方式を比較し、精度と安定性を同時に確保できることを実証した。120人を対象にした臨床試験と4週間の追跡観察を通じて、医療機器レベルの精度を達成し、信号損失率も大幅に減少したことが分かった。このように、センサーOLEDベースのスマートフォンは、血圧、心拍数、ストレス、呼吸数はもちろん、血管構造と血流の状態まで分析できるモバイルヘルスケアプラットフォームに拡大している。

 

サムスンディスプレイはSID 2025で、1枚のOLEDディスプレイで生体認証と心血管データの測定を両立するセンサーOLED技術を発表した。 出典:サムスンディスプレイ、SID 2025 論文(Paper 80-1)
サムスンディスプレイはSID 2025で、1枚のOLEDディスプレイで生体認証と心血管データの測定を両立するセンサーOLED技術を発表した。 出典:サムスンディスプレイ、SID 2025 論文(Paper 80-1)

 

センサーOLEDの最大の特徴は、インタラクティブなセンシング体験である。生体信号を測定している間、リアルタイムで信号品質を確認し、ユーザーが画面を見ながら指の位置や圧力を調整することができ、データの精度を高めることができる。論文ではこれを’User Interactive Sensing’と定義し、従来の複雑なバイオフィードバック装置に代わる端末ベースのソリューションとして発展の可能性を強調している。また、高解像度画像ベースの血流分析を通じて、指内の血管の構造や血流の流れを視覚化して測定することも可能になった。この技術は、従来の病院用血管ドップラー装置をスマートフォンに置き換えることができる基盤となる。

 

このように、センサーOLEDはディスプレイとセンサーを一つに統合することで、デバイスの厚みや複雑さを減らしながら測定性能を大幅に向上させることができるという点で、次世代のスマートフォンやウェアラブルデバイスの核心プラットフォームとして注目されている。特に、人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)技術との融合を通じて、カスタマイズされた健康モニタリング、早期疾患予測、遠隔診療など様々なデジタル治療薬(digital therapeutics、DTx)サービスと連携することができる。

 

研究チームは論文を通じて、当該技術が単に技術的な実験にとどまるのではなく、実際の臨床環境で医療機器レベルの信頼性を確保しており、大規模な臨床検証を通じて商用化の可能性も十分だと明らかにした。これにより、病院訪問が難しい環境や医療インフラが不足している地域でも基本的な健康管理が可能になると期待される。