LGディスプレイ、大型OLEDラインで「eLEAP」技術を評価へ


2025年6月28日 The Elec

 

研究装置の搬入後に技術評価の見通し…本格投資は不透明

 

LGディスプレイが、坡州(パジュ)の大型有機EL(OLED)ラインにおいて、日本JDIの技術である「eLEAP(イーリープ)」を評価する計画であることが、6月28日に確認されました。

 

ディスプレイ業界で「eLEAP」と総称されるこの技術は、ファインメタルマスク(FMM)を使用せずに、露光工程で赤(R)、緑(G)、青(B)のOLEDを形成する技術です。有機材料を蒸着装置で堆積した後、露光機で順にパターンを形成します。FMMを使用しないため、「非FMM方式OLED」とも呼ばれます。

 

LGディスプレイは、坡州E4の大型OLEDラインの一部でeLEAP技術を評価する計画です。eLEAP方式でOLED素子を形成し、さらに薄膜トランジスタ(TFT)や薄膜封止(TFE)工程まで含めてパネルを製造するには、化学気相成長(CVD)装置などのインフラが整ったラインで評価を行う必要があります。

 

この技術評価のため、LGディスプレイは必要な研究装置を追加で搬入する見通しです。その後、評価結果に基づいて量産ラインの構築可否が検討されますが、現時点では本格的な投資に踏み切る可能性は低いという見方が優勢です。

 

同様にeLEAP技術を研究しているサムスンディスプレイは、アメリカのアプライド・マテリアルズ(AMAT)から研究用の垂直蒸着装置を導入しました。AMATは2023年11月、「サムスンディスプレイに自社の『Max OLEDソリューション』を供給した」と発表し、第8世代OLEDにも対応できるとしています。サムスンディスプレイも量産適用の可能性から検討を進める必要があります。

 

LGディスプレイが坡州E4ラインでeLEAPを評価する背景には、このラインの稼働率の低さがあります。LGディスプレイは大型OLEDの生産を坡州工場よりも中国・広州のOLED工場で多く行っており、これは広州工場の製造コストが低いためです。現在、大型OLEDの全体需要は、LGディスプレイの生産能力を下回っています。

 

LGディスプレイが2024年4月に米証券取引委員会(SEC)へ提出した事業報告書(Form 20-F)によれば、2024年における大型OLEDラインのガラス基板投入能力は月間133K(13万3000枚)で、そのうち広州工場は75K、坡州工場は58Kとなっています。なお、今年からラインアップに追加された第4世代の4スタックOLEDも、現在は広州工場でのみ生産されています。

 

eLEAP技術はまだ量産性が確認されていないものの、中型OLEDのニッチ市場を狙える技術として注目されています。20〜30インチクラスのOLEDや、左右に長い車載用OLEDなど、従来のFMM方式での量産が困難な分野に適用可能と見られています。

 

FMMを用いた中小型のRGB OLEDは、主にスマートウォッチ(1インチ前後)、スマートフォン(6〜7インチ)、タブレット(10インチ前後)、ノートパソコン(10インチ台)などに使われ、FMMを用いない大型OLEDはテレビ(40インチ以上)やモニター(20〜30インチ)向けに主に採用されています。ただし、20〜30インチ帯のOLEDでは、未だ決定的な技術的優位が確立されておらず、同サイズ製品におけるOLEDの普及率も低い状況です。

 

中国のVisionox(ビジョノックス)は、IT向け第8世代OLEDラインの一部をeLEAP技術に類似した「ViP方式」で構築すると見られています。Visionoxとしては、ViPが新技術であることをアピールすることで、地元・合肥(ホーフェイ)政府からの投資を呼び込む狙いがあります。なお、JDIのeLEAPおよびVisionoxの第6世代ViPラインでは、いずれもAMAT製の垂直蒸着装置が使用されています。

 

非FMM方式OLEDは露光工程を活用するため、理論上は従来のFMM方式よりも高解像度ディスプレイの実現が可能であり、開口率も高められます。さらに、R・G・Bそれぞれに異なる材料構成が採れるという利点もあります。非FMM方式のOLEDは、JDI、Visionox、サムスンディスプレイ、そして日本のSEL(Semiconductor Energy Laboratory)などでも研究開発が進められています。