2025年5月に開催された「SID Display Week 2025 ビジネスカンファレンス」では、ディスプレイ業界の最新動向と今後の展望について、さまざまな分野の専門家が講演を行いました。Counterpoint Research副社長のロス・ヤング氏は、テレビ、スマートフォン、自動車、ITディスプレイの市場動向と技術革新について詳細な予測を示しました。
ロス氏の基調講演によると、2024年のディスプレイ市場の収益は前年比11%増加し、全体で1290億ドルに達しました。中でもOLEDは前年比17%増の460億ドル、LCDは7%増の830億ドルと堅調に推移しました。OLEDは特にモニター、タブレット、AR/VR、自動車向けで急速に採用が進んだ一方、LCDは価格下落と出荷減少の影響を受け、3年間で32%減少しました。今後2024年から2029年までの年平均成長率は1%と予測されており、2029年には市場規模が1370億ドルに拡大する見込みです。ただし、2025年は関税の影響で一時的に成長が鈍化することが懸念されています。
用途別では、モバイルとテレビが依然として最大市場であるものの、OLEDの成長が加速する他分野の影響でシェアを徐々に失うと予想されています。特に自動車向けディスプレイは、2025年にノートPCを抜き、2026年にはモニターをも上回って3番目に大きな市場になると見込まれています。自動車分野は、低温ポリシリコン(LTPS)、OLED、MiniLEDの採用拡大により年平均8.5%で成長する見通しです。
ディスプレイ技術の進化の中でも、OLEDの普及には製造のスケールアップが大きな課題となっています。Applied Materialsのインドラジット・ラヒリ氏は、OLEDの製造において、従来のファインメタルマスク(FMM)による蒸着では小型化と高開口率が制約となっていると指摘しました。これを解決するため、同社はフォトリソグラフィによるマスクレスパターニング「MAX OLED」を開発。従来のFMMを使わずに製造でき、30%以上の電力削減やコスト低減、設計の自由度を実現すると説明しました。
スマートフォン市場では、OLEDの優位性が一層鮮明になっています。2024年のスマートフォンディスプレイの出荷では、OLEDのシェアが65%に達し、特にリジッドOLEDが前年比50%以上の成長を遂げました。AppleはiPhone SEのディスプレイをLCDからOLEDに切り替える計画を進めており、これに伴い今後もOLEDのシェアが拡大すると見込まれています。一方でフォルダブル端末の出荷は2025年に減少が予想され、2026年にAppleが新製品を投入することで市場が再び活性化する可能性があります。
OLEDの性能改善は、発光材料の進化にも支えられています。Universal Display(UDC)のマイク・ハック氏は、赤・緑の燐光OLEDと蛍光青色OLEDを組み合わせた最新のスマートフォン向けディスプレイが、2015年比でエネルギー消費を72%削減したと発表しました。さらにLG DisplayはUDCと協業し、青色燐光OLEDパネルの量産レベルでの性能検証を世界で初めて成功させたことを明らかにしています。
自動車市場では、AIの進化が車載ディスプレイの高度化を加速させています。Tianma Americaのエリック・チェン氏は、インフォテインメント機能や運転支援システムの発展により、大型で高精細なディスプレイの需要が急増していると述べました。現在、車載用ディスプレイの99%はLCDが占めていますが、今後はOLEDやMiniLEDの採用が進むと見られています。VueRealのレザ・チャジ氏は、MicroLEDが性能、統合の簡便性、供給制約の緩和、安全性向上といった多方面で自動車用途に大きな可能性を持つと説明しました。ただし、量産には依然として技術的課題が残っています。
テレビ市場では、LCDが依然として主流ですが、MiniLEDを搭載した高級モデルが急速に存在感を増しています。Counterpoint Researchのボブ・オブライエン氏は、2024年にMiniLED TVが出荷数量と売上の両面でOLED TVを上回ったと報告しました。特に中国市場での補助金が追い風となり、超大型サイズのLCDやMiniLED TVの価格競争力が高まっています。一方でOLED TVは高性能ながら高コストと低収益性が課題で、パネル供給能力の拡大が進んでいません。
AR/VR分野では、VRヘッドセット市場が縮小傾向にある一方で、ARメガネはMetaやSamsungなどの参入で成長が期待されています。MicroOLEDはVRやMR用途に適していますが、ARメガネには高輝度・高効率のMicroLEDが将来の有望技術とされています。ただし、フルカラー化や量産に向けた工程の整備が依然として大きなハードルです。
IT市場では、OLEDとMiniLEDの採用が拡大していますが、依然としてコスト、消費電力、焼き付き問題が課題です。Appleが2026年にOLED iPad mini、2027年にOLED iPad Airを投入する計画を進めており、こうした製品が市場拡大の起爆剤になる可能性があります。一方でノートPCやモニターではLCDが依然として優勢で、OLEDが普及するにはさらなる価格低減と製造スケールアップが必要です。
全体として、LCDは引き続き多くの分野で主力技術ですが、OLEDやMiniLEDがプレミアム市場を中心に着実にシェアを伸ばしています。今後は自動車、IT、AR/VRなどの新しいアプリケーションで、MicroLEDをはじめとした次世代ディスプレイ技術がどこまで実用化できるかが、業界の成長のカギを握るといえます。