サムスン電子、「プロジェクト無限(ムハン)」向けOLEDoSの供給網をサムスンディスプレイと二元化検討


2025年6月25日 The Elec

 

初期ベンダーはソニー…10万台規模で下半期量産予定

 

サムスン電子が初の拡張現実(XR)ヘッドセット「プロジェクト無限(ムハン)」向けのOLEDoS(OLED on Silicon)について、ソニーとサムスンディスプレイの二元化供給体制を検討していることが、6月25日に明らかになりました。初期供給ベンダーはソニーです。

 

OLEDoSは、シリコン基板の上にマイクロOLED(有機EL)を蒸着する、1インチ前後のマイクロディスプレイ技術です。装着時に外部(現実世界)が見えない、いわゆる閉鎖型の仮想現実(VR)機器に主に用いられます。Appleが昨年発売した「Vision Pro」にもOLEDoSが採用されており、その供給元もソニーでした。

 

サムスン電子が二元化を検討しているのは、サムスンディスプレイとの利害関係が一致した結果とみられます。サムスン電子にとっては、供給網の安定性と価格交渉力の向上が期待でき、サムスンディスプレイにとってはXRディスプレイ市場での採用実績を得られる利点があります。

 

サムスン電子のXRヘッドセット「プロジェクト無限(ムハン)」(資料=サムスン電子)
サムスン電子のXRヘッドセット「プロジェクト無限(ムハン)」(資料=サムスン電子)

 

今年の「プロジェクト無限」の出荷計画は約10万台と大規模ではありませんが、将来的に市場が拡大すれば、安定した供給体制が必要になります。ソニーはOLEDoSの生産能力の拡大よりも効率的な運営を重視しており、主力はエンターテインメント分野であることから、生産設備の増強には消極的です。過去にはAppleからのOLEDoS生産能力拡大の要請も断った経緯があります。

 

サムスンディスプレイにとっては、OLEDoSの量産実績を積むチャンスとなります。サムスン電子の「プロジェクト無限」の発売時期が当初予定の昨年末から今年末に約1年遅れたことで、サムスンディスプレイにも準備時間ができました。

 

「プロジェクト無限」に搭載予定のOLEDoS仕様は、ディスプレイサイズが1.3インチ、画素密度は約3800PPI(Pixels Per Inch)とされており、AppleのVision Pro(1.42インチ/3391PPI)よりも高性能となっています。ハードウェアの仕様や製造競争力は、サムスン電子がアピールすべき強みといえます。

 

一方、サムスン電子が開発中のXRグラス「慧眼(ヘアン)」に搭載されるマイクロディスプレイ技術は、LCoS(Liquid Crystal on Silicon)であることが確認されています。当初はLEDoS(LED on Silicon)の採用も検討されましたが、LEDoS特有の性能が出せなかったため、最終的にLCoSに変更されたとされています。「慧眼」は来年上半期の発売が期待されています。

 

XRグラスは装着後も外部が見える仕様のため、閉鎖型VR機器よりも高い輝度が必要です。そのため、XRグラスにはLCoSやLEDoSの方が適しているとされます。OLEDoSをXRグラスに適用するには、全体の透過度を下げて暗くする方法もありますが、それでは見た目がサングラスのようになってしまうという欠点があります。