2025年8月10日 Wit Display
メルクは、重水素(D)を用いた有機EL(OLED)材料事業を強化している。
韓国・COEXで開催された「K-Display」展示会において、メルクは重水素置換技術の適用範囲を拡大すると発表した。従来はリン光型グリーン発光材料やホール輸送層(HTL)などに用いてきたが、今後は電子ブロック層(EBL)にも展開する。発光材料は赤・緑・青(RGB)の光を放つOLEDの中核素材。HTLは電圧・効率・寿命といったデバイスの性能を左右する重要層であり、EBLは電子が発光層から漏れ出すのを防ぎ、ホールと出会わせるための材料で、RGB発光材料の性能を支える要素のひとつである。
重水素は水素の約2倍の質量を持ち、化学反応を遅らせることができる。これをOLEDの発光層に用いることで、発光状態で生じる不安定なエネルギーを効果的に抑制できる。メルクは、電圧や効率など他の性能を維持しながら、寿命を大幅に延ばせると強調する。メルク韓国法人のキム・ジュンホ博士はこう述べた。「重水素を使えば、OLEDパネルの寿命は約2倍に延ばせます。通常の水素より重く、結合力が強いため、高温や電気的ストレスにも耐性があり、性能を向上させます。」
重水素は2022年からOLEDに利用され始め、テレビからモバイル機器まで、寿命が重要となるあらゆる分野へ応用が広がっている。
またメルクは、重水素原料の供給に懸念はないと強調する。キム博士は次のように述べた。「メルクは世界的な供給網を持っており、一部の国際紛争で制限のある地域を除き、問題はありません。当社はエレクトロニクス事業だけでなく、ライフサイエンスや製薬分野でも安定した重水素供給網を確立しています。」
さらにメルクはOLED性能を最大限に高める新材料も発表した。具体的には、折りたたみスマートフォン向け封止層用の低誘電率有機材料、原子層堆積(ALD)技術を用いた無機薄膜前駆体、反応性液晶(RM)などだ。ALD技術により、薄く高密度な膜を形成でき、折りたたみスマホの開閉をスムーズにする。また、RMを用いた反射防止フィルムは外光反射を効果的に抑え、OLEDの「真の黒」を実現する。この反射防止フィルムは現在、顧客と共同開発中だ。