サムスンディスプレイがBOEを相手取り、米国での特許訴訟攻勢を本格化


2025年4月25日 The Elec

 

サムスンディスプレイがBOEを相手取り、米国での特許訴訟攻勢を本格化させた。これは複数の民事訴訟を通じてBOEに強い圧力をかけ、ライセンス交渉などで優位に立とうとする意図があるとみられる。

 

業界関係者によると、サムスンディスプレイは今月1日から23日(米国時間)までの間に、BOEを相手取りアメリカ・テキサス東部連邦地裁に特許侵害訴訟を3件、営業秘密侵害訴訟を1件提起した。サムスンディスプレイはすでに2023年にも同じ裁判所にBOEを相手取った特許侵害訴訟を1件提起しており、これらを合わせると現在までにテキサス東部連邦地裁で係争中の特許侵害訴訟は4件、営業秘密侵害訴訟は1件となっている。

 

また、サムスンディスプレイが特許侵害訴訟4件においてBOEが無断使用したと主張している特許の数は、合計17件に増加した。なお、サムスンディスプレイが2023年に提起した訴訟で使用した5件の特許のうち、4件はアメリカ特許審判院(PTAB)の無効審判(IPR)を通じて有効と認められた。特許審判院は昨年12月から今年1月にかけて、この4件について有効であるとの判断を下した。一方、残る1件についてはまだ審決が出ていない。

 

これに対し、BOEは有効と判断された4件の特許について、今年2月から3月にかけて連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に控訴した。

 

 

一方、今年3月にアメリカ国際貿易委員会(ITC)は、サムスンディスプレイが求めていたBOE製品に対する輸入禁止命令は出さなかったが、BOEがサムスンディスプレイの特許3件を侵害していたと認定した。輸入禁止命令が下されなかったことで、サムスンディスプレイはBOEに対する一つの強力な圧力手段を失った形にはなったが、特許侵害の有無だけを見れば、全体的にはサムスンディスプレイに有利な結果となった。このITCによる特許侵害調査により、2023年にテキサス東部連邦地裁に提起されていた特許侵害訴訟は一時中断されており、現在もまだ再開されていない。

 

サムスンディスプレイのダイヤモンドピクセル構造(左)と、サムスンディスプレイが今月、アメリカ・テキサス東部連邦地裁に提出した訴状において、BOEの特許侵害の証拠として提示した資料(右上・右下)(資料=サムスンディスプレイ、アメリカ・テキサス東部連邦地裁)
サムスンディスプレイのダイヤモンドピクセル構造(左)と、サムスンディスプレイが今月、アメリカ・テキサス東部連邦地裁に提出した訴状において、BOEの特許侵害の証拠として提示した資料(右上・右下)(資料=サムスンディスプレイ、アメリカ・テキサス東部連邦地裁)

 

このような状況の中で、サムスンディスプレイが今月、BOEに対して特許侵害訴訟3件、営業秘密侵害訴訟1件といった民事訴訟を相次いで提起したのは、BOEに対する圧力を再び強め、特許ライセンス交渉などで優位に立とうとする意図があるとみられている。両社の主要顧客であるアップルやサムスン電子なども、関連する争いを注視せざるを得ない状況だ。

 

まず、サムスンディスプレイがBOEに対して特許紛争を本格化できる条件が整った。もともと2022年12月にサムスンディスプレイが国際貿易委員会(ITC)に、BOEではなく、アメリカの輸入・卸売業者17社を対象にリファービッシュ(修理用)OLEDの特許侵害調査を申請したのは、主要顧客であるアップルを刺激せずにBOEを間接的に攻撃しようとする意図があったからだ。対象となったパネルは、BOEなどが製造していた。

 

その後、2023年3月にはBOEが特許侵害調査の被申請人に加えられ、2023年6月にはBOEなどがサムスンディスプレイの特許5件に対して特許審判院に無効審判を請求した。同月、サムスンディスプレイがBOEを相手取り特許侵害訴訟を提起し、「本格的な勝負」とも言える民事訴訟が始まった。

 

サムスンディスプレイとBOEはすでに特許ライセンス交渉を開始しているとされる。特許紛争が発生すると、自然な流れとしてライセンス交渉に入ることになり、お互いに相手が何を求めているかを把握する必要があるためだ。

 

 

特許権者の立場からすれば、裁判所から侵害禁止命令を勝ち取れば競合製品の販売を完全に止めることができるが、2006年のeBay判決以降、米国の裁判所が侵害禁止命令を出す例は大きく減少した。その代わり、特許権者が損害賠償金や特許ライセンス料の支払いに至る契約を相手と締結すれば、競合企業の価格競争力を低下させることができる。

 

業界では、特許ライセンス料に関する立場の違いが埋まらない場合、サムスンディスプレイがBOEを相手に液晶ディスプレイ(LCD)関連の特許訴訟を提起する可能性もあると見られている。これまでサムスンディスプレイがテキサス東部連邦地裁や国際貿易委員会(ITC)などで侵害を主張してきた特許と営業秘密は、すべて有機EL(OLED)関連技術に関するものだった。

 

これまで米国市場では、BOEがOLEDを搭載したスマートフォンなどで上げた売上よりも、LCDを搭載したテレビなどの売上のほうが多いとされている。特許侵害による損害賠償額や将来的なライセンス料も、売上高に比例するためだ。BOEも近年、米国でディスプレイ関連特許の出願を増やしているが、LCDもOLEDも技術的には後発であり、特許が不足している。したがって、BOEが米国市場から撤退しない限り、サムスンディスプレイと具体的な条件をめぐって交渉に入る可能性が高い。

 

サムスンディスプレイは2022年に米国のLCD特許577件をCSOTに譲渡したが、それでもなお駆動・機構などに関連する米国LCD特許を保有している。この特許譲渡は、2020年に中国・蘇州のLCD工場をCSOTに売却したことに伴う後続措置だった。CSOTは今月1日付で、LGディスプレイから広州LCD工場も買収しており、関連特許もCSOTが購入すると予想されている。

 

こうした事情から、もしBOEが米国市場でのシェアを縮小すれば、その分CSOTに米国市場でのチャンスが巡ってくることになる。この場合、BOEは中国市場やヨーロッパ市場でのシェア拡大を図らなければならず、特にヨーロッパではサムスンディスプレイやLGディスプレイによる特許攻撃の可能性も考慮しなければならない。サムスンディスプレイは2022年にLCD事業から撤退しており、LGディスプレイも今年3月をもってテレビ用LCD事業から撤退した。LGディスプレイもBOEに対し、LCD特許侵害について警告してきた。ヨーロッパは特許権に対して親和的な地域でもある。