Visionox、IT第8世代投資の優先順位を「ViP」に転換…FMMは延期


2025年6月2日  The Elec

 

Visionoxが、IT第8世代有機EL(OLED)の第1段階生産ラインを、ファインメタルマスク(FMM)を使用しない「ViP」方式で優先的に投資する方向に傾いている。

 

ViP方式への転換と業界の反応

業界関係者によると、Visionoxがこれまで有力に検討していたFMM方式からViP方式に転換したことで、受注を期待していたFMM方式の装置メーカーの失望感が大きくなっている。Visionoxは先月下旬、合肥シェラトンホテルで開催された会議で、ViP方式のみを強調したと伝えられている。この会議には、合肥市政府、そして韓国の装置メーカーであるSunik Systems、Avaco、H&E R&D、YAS、Narae Nanotechなどの関係者が出席した。Sunik SystemsやAvacoなどは、FMM方式の蒸着装置や物流設備の納入を期待していた企業である。

 

韓国の装置メーカー関係者はこれについて、「ViPだけを強調するなら、なぜ我々(FMM方式の装置メーカー)を呼んだのか分からない」と述べた。この時期を境に、Sunik Systemsや日本のCanon TokkiなどのFMM方式の装置メーカーの期待感も低下した。Visionoxは、FMM方式への投資は約6か月後に実行する計画を明らかにしたとされている。

 

別の業界関係者は、「現状では、VisionoxのIT第8世代第1段階投資において、ViP方式を優先的に含める方向が有力だ」と述べ、「Visionoxは『FMM方式を放棄していない』と述べたが、現時点ではFMM方式への投資実行は不確実に見える」と指摘した。

 

従来のFMM方式(左)と、FMMを使用しない「ViP」方式(右)の比較(資料=Visionox)
従来のFMM方式(左)と、FMMを使用しない「ViP」方式(右)の比較(資料=Visionox)

 

ViP方式への転換の背景

Visionoxは今年3月までは、実務担当者で構成される技術委員会がFMM方式を好んでいたと伝えられている。当時、技術委員会は、第6世代パイロットラインを構築したViP方式の生産歩留まりが低いため、ViP方式で第8世代ラインに直ちに投資することは困難だと判断していた。

 

しかし、4月頃から雰囲気が変わった。この時、Visionoxの役員陣が、ViP方式でIT第8世代ラインに投資することで、合肥政府からの投資を誘致できると強調したと伝えられている。ViPが新技術であるという点が、VisionoxのIT第8世代投資の根拠となった。Visionox内部の雰囲気は、外部にも徐々に知られるようになった。

 

投資戦略と今後の見通し

当初からVisionoxがIT第8世代ライン投資において、ViP方式から先に実行することが避けられなかったという見方もある。別の関係者は、「VisionoxにとってViPはIT第8世代投資の根拠だった」とし、「ViP蒸着装置を製造できるApplied Materials(AMAT)が高い装置価格を提示したため、FMM方式で優先的に投資できると示唆(メディア露出)したと見るべきだ」と述べた。VisionoxのViP蒸着装置は、AMATが納品する可能性が高いとされている。

 

彼は「現在、Visionoxでも最終決定されたわけではないため、投資実行はさらに遅れる可能性もある」と付け加えた。Visionoxの技術委員会は、今もFMM方式でIT第8世代ラインに優先的に投資すべきだという立場であると伝えられている。

 

Visionoxの投資計画と技術的な課題

Visionoxは昨年8月、IT第8世代OLEDライン(V5)を、ガラス原版投入基準で月3万2000枚(32K)規模で構築すると発表した。全体の投資規模は550億元(約10兆4000億ウォン)である。550億元の中から初期登録資本の20億元(約3800億ウォン)のうち、Visionoxは20%を負担し、残りの80%は地方政府の負担となる。後続投資が続く場合も、Visionoxなどは同比率で出資する。

 

当時、VisionoxはViP技術を強調しながらも、ViPラインをどの程度の規模で構築するかは公開しなかった。規模と時期は明らかにされなかったが、Visionoxが全体で月32Kと計画したV5ラインのうち、4分の1である月8KはViPで構成されるという見方が支配的だった。ただし、時期が問題だった。

 

ViP方式のOLEDは露光工程を使用する。理論的にはFMM方式よりも開口率(ピクセルから光が出る部分の割合)と効率が高い。しかし、量産性は検証されていない。ViP方式のOLEDは、赤(R)材料を蒸着した後に露光し、緑(G)材料を蒸着した後に露光し、青(B)材料を蒸着した後に露光する方式でRGB OLEDを製造する。ViP方式がFMM方式よりもシャドー効果(マスクなどの構造によりサブピクセルが目的の位置に蒸着されない現象)が小さいという期待もあるが、ViP方式もRGBサブピクセルを蒸着・パターニングする際に発生するシャドー効果は依然として改善課題だ。

 

Samsung DisplayとBOEはともにIT第8世代OLEDラインをFMM方式で構築している。Samsung Displayの投資規模は月15Kだ。BOEは全体で月32Kを計画した。BOEは第1段階の月16Kに相当する主要設備を搬入したが、第2段階の月16K設備はまだ発注していない。