日付:2026年5月13日
出典:The Elec
BOEが8.6世代有機ELの量産を前倒しで開始
中国のBOEは、今月末から8.6世代有機EL生産ラインの量産稼働を始める。今回の量産は、台湾のノートPCメーカー向け製品が対象とみられており、ASUSとAcerが顧客企業として挙がっている。生産されるのは14インチのノートPC向けパネルで、具体的なノートPCのモデル名や供給数量はまだ明らかになっていない。
業界によると、BOEは今月末から成都のB16工場で有機ELパネルの量産に入る。当初、BOEが提示していた8.6世代有機ELの量産目標時期は2026年下半期だったが、今回の稼働開始によって計画より1カ月以上早まる形となった。B16工場は2025年12月30日に初稼働しており、この時点でも当初想定より5カ月早い進捗だったとされる。
BOEは先月の業績説明会で、8.6世代有機EL事業について顧客企業によるサンプル検証が進んでいると説明していた。BOEは、ノートPC、タブレット、スマートフォン分野で国内外の顧客と協力プロジェクトを推進しており、最初の製品は現在サンプル検証段階にあるとしていた。今回の量産は、14インチのノートPC向け有機ELパネルを生産するためのガラス基板投入時点とみられている。業界では、生産ラインに量産用ガラスマザー基板を投入する時点と、顧客企業へ実際に製品を出荷する時点を区別しており、ガラスマザー基板が投入されても、最終的に顧客製品へ搭載されるパネルの出荷までには一定の時間差が生じる可能性がある。
成都B16工場の能力とLTPOベース技術の特徴
B16工場の生産能力は、月産3万2000枚規模とされる。このうち、まず第1段階ラインが先行して稼働する。基板サイズは2290ミリメートル×2620ミリメートルで、投資規模は約630億元、日本円換算で約13兆8152億円に達する。この工場は、低温多結晶酸化物、いわゆるLTPOベースの有機EL生産ラインとして知られている。
LTPOは、低温多結晶シリコンであるLTPSと、酸化物TFTを組み合わせた方式だ。画面のリフレッシュレート制御や消費電力の最適化に有利であるため、スマートフォンだけでなく、ノートPCやタブレットなどIT機器向け有機ELへの採用が広がっている。特にモバイルPC市場では、高画質と低消費電力を同時に求める需要が強まっており、LTPOベースの有機ELは次世代ディスプレイ技術として存在感を高めている。
BOEが量産開始時期を前倒ししたことは、単なるスケジュール短縮にとどまらず、IT向け中大型有機EL市場で主導権を確保しようとする戦略の一環とみることができる。8.6世代ラインは、ノートPCやタブレット向けのパネルを効率良く生産しやすい世代として注目されており、今後の量産安定化や歩留まり改善が進めば、価格競争力の面でも市場に大きな影響を与える可能性がある。
IT向け有機EL市場拡大とサムスンディスプレイとの競争
BOEは、IT向け有機EL市場の拡大を強く見込んでいる。先の業績説明会では、タブレット向け有機ELの浸透率が2025年の約4%から2028年には9%へ、ノートPC向け有機ELの浸透率は同じ期間に5%から14%へ上昇すると予想した。さらに、2026年から2027年を、中型有機ELが試験導入段階から本格的な主力市場へ移行する転換期と位置付けている。
韓国では、サムスンディスプレイも8.6世代有機ELの量産を控えている。忠清南道牙山のA6ラインには、ガラスマザー基板ベースで月産1万5000枚規模の8.6世代有機EL設備が構築されている。このうち、2026年6月から7月に先行量産へ入る第1ラインの規模は月産7500枚とされる。こちらは酸化物TFTベースで設計されており、2026年下半期の発売が見込まれるAppleのMacBook Pro向け14インチおよび16インチ有機ELパネルを生産する計画だ。
ディスプレイ業界関係者は、今後のIT市場における有機EL浸透率は、BOEの供給価格と品質によって大きく左右されるとの見方を示している。つまり、BOEが量産を前倒ししたこと自体以上に、どの水準の品質でどれだけ安定供給できるのかが、ノートPCやタブレット市場で有機ELが本格普及するかどうかを決める重要な分岐点になるということだ。BOEとサムスンディスプレイの8.6世代有機EL競争は、今後のIT向けディスプレイ市場構造を左右する核心テーマとして注目を集めそうだ。