2025年11月27日|金融ニュース
BOE(京东方)は、大日本印刷(DNP)と協力し、日本・福岡県黒崎工場で生産される第8世代(G8)大型精密金属マスク(FMM)の調達を計画していることが、業界関係者の話として明らかになった。これはBOEが建設中の8.6世代有機EL生産ラインプロジェクトの進展にともない、量産に直結する最重要部材の確保に動いたものとみられる。
BOEが総投資630億元を投じる8.6世代有機EL生産ラインは、2024年9月25日に全面上棟を迎えており、建設期間は約183日であった。その後、2025年5月20日には工芸関連の製造装置の搬入が開始され、当初計画より4か月早まる形で、建設段階から本格的な稼働準備段階へ移行した。生産ラインの初点灯は2025年12月を予定しており、商用量産は2026年第三四半期に前倒しされる見込みで、これは世界で最も早い8.6世代有機ELの量産になる可能性が高い。
現在、同プロジェクトでは最重要部材である大型FMMの調達工程が進んでおり、技術的成熟度および特許の優位性から、第一選択肢としてDNP製FMMが選ばれることになった。調達契約は近日中に締結される見通しである。
DNPの第8世代FMM量産体制と世界シェア
有機EL向け精密金属マスク(FMM)分野で、日本のDNPは世界供給の約95%を占める独占的企業である。その材料には日立金属製のインバー合金(鉄・ニッケル合金)が用いられており、DNPはこの材料について日立金属と独占供給契約を結んでいる。FMMの主要製造プロセスは湿式エッチングであり、この技術的蓄積こそが世界シェアの源泉である。
市場ではタブレットやノートPC向けの大型有機ELパネル需要が高まっている。これに対応するため、DNPは2024年5月に黒崎工場で第8世代ガラス基板に対応した新ラインの稼働を開始した。この新生産ラインによってDNPの大型FMM供給能力は従来比で倍増し、世界的なG8対応FMM需要に応える体制が整った。G8基板は一般的な第6世代(G6)基板より面積が大きく、歩留まり改善やコスト低減に直結するため、主要パネルメーカーの生産戦略において不可欠の存在となっている。
また、黒崎工場の新ラインは広島県三原工場のバックアップ拠点としての役割も担い、サプライチェーンリスクに備えるBCP(事業継続計画)上の強化策にもなっている。
とはいえ、この分野では挑戦者も存在する。韓国企業のVault CreationやPhilOpticsなどはいずれも乾式エッチングや電鋳など、DNPとは異なる技術ルートでFMMを開発し、特許制約を避けようとしている。しかし、インバー合金供給網、工法の安定性、下流のパネルメーカーとの共同検証など、多くのハードルが存在するため、短期的にDNPの独占構造を揺るがすには至っていない。
DNPはインバー合金供給の掌握、湿式エッチング技術の深化、G8対応大型FMMの増産という三本柱によって、有機EL産業における強固な参入障壁を築いている。中韓メーカーが追随の姿勢を見せているとはいえ、当面の間、DNPの存在感は揺るぎないと見られる。
BOEによる調達の背景と中日サプライチェーンの複雑化
FMMは有機EL蒸着プロセスにおける最重要部材であり、極めて精密なステンシル構造を持つ。赤・緑・青の有機EL材料を基板上に正確に蒸着し画素を形成する役割を担うため、FMMの品質は解像度、表示品質、生産良率に直結する。したがって、大型FMMの調達は8.6世代有機ELラインの成功に不可欠であり、BOEがDNP製品を選択したことは自然な判断といえる。
ただし、BOEとDNPの協力が中日間の複雑な政治情勢の影響を受ける可能性も指摘されている。従来、中日関係は「政冷経熱」と形容されるように政治的緊張と経済協力が同時に存在してきたが、今回は政治問題が経済分野にも波及する兆しがある。
製造業、とりわけ材料やハイエンド製造装置では日本企業が圧倒的な技術力と供給力を保持しており、中国の国産化率は依然低水準にある。ディスプレイ産業においても、有機EL蒸着用大型FMMのほか、偏光板上流材料であるPVAフィルムやTACフィルム、ハイエンドのKrF/ArFレジスト、有機EL用蒸着装置など、日本メーカーが高い世界シェアを持つ分野は少なくない。これらは中国の主要パネルメーカーにとって不可避の依存構造となっており、中国企業が短期で技術的に追いつくことは難しい状況にある。
BOEが今回DNP製FMMを採用する決定は、こうしたサプライチェーンの現実を反映したものといえる。中日間の関係性が変動する中でも、日本の材料・製造装置企業は中国ディスプレイ産業にとって依然として「越えられない大きな壁」であり、この状況は今後も長期間続くと予測されている。