日付:2026年5月10日
出典:ET News
韓国と中国のディスプレイ業界が、次世代ディスプレイ素子として注目されるPSF(Phosphorescent Sensitized Fluorescence )有機ELを相次いで打ち出し、新たな競争局面に入った。PSFは、ディスプレイの色再現性とエネルギー効率の両立に関わる技術として関心を集めており、スマートフォン向け有機ELの進化を左右する有力候補として存在感を高めている。とくに韓国のサムスンディスプレイと、中国のBOEやVisionoxが実用化や供給を進めており、今後の市場競争と材料開発の方向性を占う重要なテーマになっている。
サムスンディスプレイが示したPSF有機ELの実力
サムスンディスプレイは今月、米国で開催された情報ディスプレイ学会SIDの「ディスプレイウィーク」で、緑色PSF素子を適用したスマートフォン向け有機EL技術「フレックス・クロマ・ピクセル」を公開した。この技術の特徴は、最大画面輝度3000ニットという高輝度条件でも、BT.2020規格ベースで96%という広い色域を実現できる点にある。一般に、ディスプレイは明るさを高めるほど広色域表現が難しくなるが、PSF素子の適用によってその課題を克服した形だ。
PSFは、比較的寿命の長い蛍光材料が多くの電流電荷を受け持ち、実際の発光は燐光によって行う技術を指す。これを適用すると、発光波長の幅を狭めやすくなり、エネルギー効率を高めながら、より深く鮮明な色を表現しやすくなる。スマートフォン用有機ELでは、単に明るいだけでなく、色の純度や消費電力の最適化が重要になるため、PSFは次世代材料技術として大きな意味を持つ。
PSF有機ELは、蛍光の色のきれいさと、燐光の高いエネルギー利用効率をできるだけ両立しようとする発光方式です。とくにスマートフォン向け有機ELでは、「もっと鮮やかな色を出したい」「でも消費電力は増やしたくない」「しかも寿命も落としたくない」という3つの要求が同時にあるため、PSFはその折衷案として注目されています。構造としては、従来の「ホスト材料+発光材料」という2成分より一段複雑で、ホスト材料、燐光増感側の材料、蛍光発光体の3成分で設計されるのが特徴です。
中国勢も実用化へ、BOEとVisionoxが追撃
中国のディスプレイメーカー各社も、2026年から緑色PSFを自国製スマートフォンへ適用し始めており、技術競争は一段と激しくなる見通しだ。中国勢の目標も、BT.2020色域規格を満たす高性能ディスプレイの実現にある。
BOEは、2026年初めに発売されたファーウェイ製スマートフォン向けに、緑色PSF有機ELを適用したパネルを少量供給し、すでに商用化に踏み出した。さらに、下半期に発売予定の後継製品にも供給する計画だという。Visionoxも、米ユニバーサルディスプレイ(UDC)と共同で緑色PSFを開発しており、2025年末からスマートフォンメーカーへの供給を始めている。Visionoxの供給先顧客については確認されていない。
BT.2020は2012年にUHDテレビ放送向けに策定された色域規格で、Rec.2020とも呼ばれる。現在ではUHD、4K、8K放送や各種コンテンツ制作でも採用される、広色域表示の重要な標準となっている。アップルやサムスン電子など主要スマートフォンメーカーは、DCI-P3基準で99%以上を満たすディスプレイを採用しているが、サムスンディスプレイによれば、これはBT.2020基準では約70%水準に相当する。つまり、BT.2020基準での高色域化は、現行スマートフォンの表示性能をさらに引き上げる次のテーマだといえる。
緑から青へ、PSF有機ELが切り開く次世代ロードマップ
ディスプレイパネルメーカーがまず緑色材料からPSFを適用しているのは、材料研究が比較的進んでおり、材料置換による効果も大きいためとみられる。まずは緑色領域で成果を示し、その後のスマートフォン向け有機ELの進化可能性を市場に提示する狙いがある。
さらに長期的には、いまだ蛍光材料が中心となっている青色発光への燐光適用に向けて、PSF技術が重要な橋渡し役になる可能性がある点が注目される。燐光は理論上、電気エネルギーを光へ変換する効率が100%近くに達するとされ、25%水準の蛍光に比べて4倍高い効率を持つ。一方で、波長の短い青色はエネルギーが大きいため、青色燐光材料は寿命が短く、ディスプレイの安定性も低下しやすいという課題があった。こうした制約を踏まえると、PSFは青色高効率化への現実的な過渡技術、あるいは実用技術として期待されている。
あるディスプレイ分野の専門家は、PSFには色純度を高める効果がある一方、スマートフォンでは効率向上を狙って活用しようとする流れが強いと指摘した。そのうえで、蛍光材料、燐光材料、ホスト材料まで材料構成が増えることで、均一な蒸着の難易度が上がるため、量産時の歩留まりや生産効率をどこまで検証できるかが、今後の商用化を左右する鍵になると分析した。
今回のPSF有機EL競争は、単なる新材料採用の話ではなく、スマートフォン用有機ELの高輝度化、高色域化、低消費電力化をめぐる主導権争いそのものといえる。韓国勢が先行技術の完成度を示す一方で、中国勢も商用供給で追い上げており、今後は材料性能だけでなく、量産性、安定性、顧客採用実績まで含めた総合力が競争力を決めることになりそうだ。とくにBT.2020対応の進展と、将来的な青色系材料への応用が本格化すれば、PSF有機ELは次世代スマートフォンディスプレイの重要キーワードとして、検索需要や業界関心をさらに集める可能性が高い。