2026年6月11日/出典:The Elec
中国のディスプレイメーカーであるVisionoxは、精密金属マスク(FMM)を使用せずに有機EL画素を形成する「ViP(Visionox intelligent Pixelation)」技術を用いたパネルを、シャオミなどに供給する方針であることが明らかになった。
非FMM方式「ViP技術」の概要と利点
業界によると、Visionoxはシャオミのスマートウォッチ、スマートフォン、さらには3Dメガネ向けにViP方式の有機ELパネルを開発しており、早ければ年内にも供給を開始する計画である。
ViPは、従来のFMMを用いずに有機ELパネルを製造できる技術である。FMMは赤(R)、緑(G)、青(B)の有機材料を発光層に蒸着する際に使用される微細孔を持つマスクであり、一定期間使用すると交換が必要な消耗品である。さらに製造難易度が高く、大日本印刷(DNP)が事実上独占供給している。また、FMM材料であるインバー(ニッケル・鉄合金)も主に日本企業が供給している。
これに対しViPは、FMMの代わりに露光工程などを活用してRGBサブピクセルを形成する方式である。この方法により、有機材料が狙った位置に正確に堆積しない問題や、蒸着ムラ・にじみといった課題の改善が可能となる。さらに、光の透過率(開口率)の向上や発光素子の寿命改善にも有利であり、高解像度かつ大面積の有機EL実現に適した技術として評価されている。
スマートウォッチからスマートフォンへ適用拡大
Visionoxは現在、第6世代フレキシブル有機EL生産ラインであるV3ラインにおいて、ViPパネルの少量量産を進めている。このラインはスマートウォッチやスマートフォンなど中小型ディスプレイに対応可能である。
最近では、ファーウェイから独立したブランド「Honor」のスマートウォッチに同パネルが採用された実績がある。Visionox関係者は、「ViP工程は2026年第1四半期にグローバル主要ブランドのスマートウェアラブル機器向けに量産供給され、実際の出荷実績を確保している」と説明している。
2026年のViPパネル出荷目標は約300万枚で、スマートウォッチとスマートフォン向けを合算した数値である。2026年5月時点ではすでに約100万枚が出荷されたとされる。今後はV3ラインで歩留まりを向上させた後、次世代ラインでの本格量産へと移行する計画である。
8.6世代ライン「V5」で本格量産へ
Visionoxは現在、中国・合肥において第8.6世代有機EL生産ライン「V5」を建設中である。このラインの月間生産能力はガラス基板投入ベースで3万2000枚とされ、投資額は約550億元(約10兆円)に達する見込みである。V5ラインもViP方式による量産を前提として設計されている。
同ラインはすでに製造装置の設置および試運転段階に入っており、工場建設とクリーンルーム整備は完了している。2026年4月15日には初の露光装置が、5月23日には初の蒸着装置が搬入され、プロジェクトは本格的な設備導入フェーズに移行した。
Visionoxはすでに合肥の第6世代改造ラインにおいて、ViP工程の研究開発から量産までの一貫体制を構築しており、その成果をV5ラインに展開する計画である。V5ラインの量産開始目標は2027年とされている。同社関係者は、「合肥で構築したViP工程は、研究開発から量産までを網羅する体制を備えており、8.6世代ラインへの適用に向けた実証基盤も確立している」と述べている。
今後の課題:歩留まりと品質安定化
業界関係者は、「Visionoxが非FMM方式の有機ELパネルを実際に顧客へ供給している点は重要な進展だ」と評価する一方で、「スマートフォンやIT製品などへの適用拡大には、さらなる歩留まり向上と品質安定化が不可欠である」と指摘している。
ジャパンディスプレイのeLEAPと類似の技術であるViP技術が、FMM依存からの脱却を実現し、次世代有機EL市場でどこまで競争力を高められるかが今後の焦点となる。