日付:2026年6月1日
出典:The Elec
6世代ラインで進むHMOの開発と検証
LGディスプレイは、6世代の中小型有機ELに適用する新技術として、「高移動度酸化物(HMO:High Mobility Oxide)」TFTバックプレーンの開発を進めている。アップルが低温多結晶酸化物(LTPO)TFTの次に採用する次世代の低消費電力バックプレーン候補としてHMOを検討していることを受け、LGディスプレイも本格的な技術検証に着手した格好だ。
業界によると、LGディスプレイは6世代の中小型有機ELラインでHMOの開発と検証を進めているという。業界関係者は、HMO技術と製造装置が6世代ラインに開発・検証用として投入されたと説明した。ただし、具体的にいつからHMO技術の開発を始めたのかは明らかになっていない。サムスンディスプレイが8.6世代ラインで原子層堆積(ALD)方式を用いたのに対し、LGディスプレイはスパッタ製造装置を活用しているとされる。
業界内では、アップルウォッチなどに採用される有機ELが、LGディスプレイのHMO技術の最初の用途になる可能性があるとの見方も出ている。別の業界関係者は、LGディスプレイが来年、まずスマートウォッチ向けに供給する予定だと理解しているとしたうえで、アップルは単独調達を好まず、価格交渉で有利になる二元化・三元化戦略を選好する傾向があると説明した。
HMOが次世代バックプレーンとして注目される理由
HMOは、ディスプレイの駆動回路であるTFTを動作させる方式の一つだ。TFTは電流の流れを制御し、スイッチングの役割を担う半導体素子であり、アモルファスシリコン(a-Si)、低温多結晶シリコン(LTPS)、LTPO、酸化物などに分類される。
このうち酸化物TFTは、LTPSやLTPOとは異なり、レーザー結晶化やイオン注入などの工程を必要としない。そのため低消費電力に有利であり、製造面でもメリットがある。中小型有機ELパネルで広く使われているLTPOが、LTPSと酸化物それぞれの長所を組み合わせた技術であるのに対し、HMOは酸化物の強みである低消費電力と低い製造コストをさらに前面に押し出した技術といえる。
一般的に酸化物は電子移動度が低く、高精細や高リフレッシュレートの有機ELでは駆動性能に限界があると指摘されてきた。現在量産に使われている酸化物の電子移動度は、10㎠/Vs以下の水準とされる。業界では、次世代IT用有機EL向け酸化物TFTの目標移動度を30~50㎠/Vs程度とみており、HMOの核心はこの酸化物の電子移動度をどこまで高められるかにある。
LGディスプレイが活用しているスパッタは、酸化物工程で使われる薄膜形成方式の一つだ。既存工程との連携が比較的容易で、すでに整備されている量産製造装置の基盤を活用できる利点がある。一方で、HMOが求める高い電子移動度、大面積での均一性、長期信頼性を同時に確保しなければならないという難しさもある。
アップル向け採用の可能性と量産化への課題
LGディスプレイによるHMO開発は、アップルの有機EL新技術導入の流れとも密接に結びついている。業界では、アップルがこれまで一部の新技術をまずLGディスプレイとともにウォッチ向けで検証し、その後モバイル向けへ拡大する段階で、サムスンディスプレイとLGディスプレイの両社に開発を要請する形を取ってきたとみられている。
業界関係者は、HMOについてもパネルメーカー各社がかなり以前から独自開発を進めてきたとし、アップルは新しいバックプレーン技術をLGディスプレイとウォッチ向けで先に検証した後、モバイル適用の段階でサムスンディスプレイとLGディスプレイの両社に開発範囲を広げてきたと説明した。さらに、HMOもこれと似た流れになる可能性があり、対象はモバイルだけでなくIT用有機ELにまで広がることが検討されていると付け加えた。
ただし、実際にどの製品へ、いつ適用されるのかはまだ確定していない。最終的な製品採用の可否は、顧客企業の開発スケジュールと製造装置の検証結果によって決まる見通しだ。LGディスプレイとしては、6世代ラインでHMOが量産に適した技術かどうかを見極める必要がある。評価の焦点は電子移動度だけでなく、工程温度、均一性、信頼性、そして歩留まりまで含めた総合的な量産適合性にある。
今回の動きは、アップル向け有機ELサプライチェーンの次世代技術競争を占ううえでも重要だ。特にスマートウォッチからモバイル、さらにIT用有機ELへと技術適用が広がるシナリオが現実味を帯びれば、HMOはLTPO以降の有力な低消費電力バックプレーン技術として存在感を高める可能性がある。LGディスプレイがスパッタ方式を通じてどこまで性能と量産性を両立できるかが、今後の注目点になりそうだ。