自動車メーカーは車載AIメガネを模索しているのか、それとも未来市場への参入競争なのか


記事日付:2025年12月18日 /出典:UBIリサーチ

 

車載HMIの進化とAIスマートメガネへの拡張可能性

車載ディスプレイの大型化・多画面化が進む中で、自動車のHMI(Human–Machine Interface)は新たな転換点を迎えている。これまでメーターパネルやセンターディスプレイ、HUDを中心に発展してきた情報表示のあり方が、今後は運転者が身に着ける個人装着型デバイス、すなわちAIスマートメガネへと拡張される可能性が指摘されている。車両内ディスプレイの進化が頭打ちを見せる中、視線や操作のあり方を変える新たなインターフェースとして、AIメガネが注目を集めている。

 

自動車業界とAIメガネ市場への参入動向

近年、AIメガネ市場の拡大が期待される中で、参入企業は着実に増加している。従来のスマートメガネメーカーやインターネット企業、スマートフォンメーカーに加え、中国メーカーのシャオミ、理想(Li Auto)、吉利(Geely)といった自動車グループ企業も、AIスマートメガネを車両エコシステムの一部として位置付け始めている。

 

2024年にはBMWがCES展示会において、XREAL Air 2の拡張現実(AR)メガネを通じて、ナビゲーション案内や危険警告、エンターテインメントコンテンツ、充電ステーション情報を表示し、運転体験を向上させる技術を披露した。2025年6月にはシャオミが、車載機器との連携が可能な初のAIスマートメガネを発売し、同社はこれをスマートフォン、IoT、電気自動車を結ぶ「人×車×家(Human × Car × Home)」戦略の延長線上に位置付けている。

 

8月には吉利が、自社のAI技術を車載スマートキャビン分野へ本格適用すると発表した。吉利は魅族(Meizu)を買収してDreamSmart(星紀魅族)を設立し、車両OSと連携させることで、車内ディスプレイ体験を車外へ拡張する戦略を進めている。DreamSmartは2023年と2024年に計3種類のARメガネを発売し、システムを通じて車両と連動可能としている。また吉利は2024年に、LEDoSマイクロディスプレイメーカーであるJBDへ出資も行っている。

 

さらに2025年11月には、GAC(広汽)汽車がRokidと共同で「AIスマートメガネ+車両」の応用テストを実施した。12月には理想(Li Auto)が初のAIメガネ「Livis」を正式発表した。同社は2024年からAIメガネプロジェクトを推進してきたとされ、Livisは車両システムとの高い親和性を特徴とする。車両乗車時に軽くタッチするだけで初回ペアリングが完了し、その後は自動接続されるほか、音声コマンドによってエアコンやステアリングホイールのヒーターなど、車両制御機能も利用できる。

 

車両システムとシームレスに連動し、音声制御および各種情報を提供する、Li Auto初のAIメガネ「Livis」(出典:lixiang.com)
車両システムとシームレスに連動し、音声制御および各種情報を提供する、Li Auto初のAIメガネ「Livis」(出典:lixiang.com)

 

現実的な活用シナリオと補助デバイスとしての位置付け

現時点では、AIメガネが短期間でメーターパネルやHUDを完全に代替することは現実的ではない。走行中の視界妨害の可能性や安全規制、長時間装着による疲労といった課題が依然として残っているためである。そのため、想定される活用シナリオは限定的なものから始まると考えられている。

 

一つ目は、HUDを補完するディスプレイとして、ナビゲーションの方向指示や簡易的な走行情報、警告通知などに限定した情報表示を行い、視線移動を最小限に抑える使い方である。二つ目は、AI音声を中心とした補助インターフェースとしての役割であり、視覚情報よりも音声コマンドと簡単な視覚フィードバックによって車両機能を操作する点が重視される。三つ目は、渋滞時や駐車時、車外活動中、あるいは非走行時など、特定の状況に限定した利用であり、こうしたシナリオが優先的に導入されると見られている。

 

これらの点から、AIメガネは「車載用の主ディスプレイ」ではなく、まずは補助デバイスとして定着する可能性が高いことが示唆される。

 

技術成熟度と将来の車載AIメガネ像

AIメガネが車載用途として普及するかどうかは、最終的には技術成熟度に左右される。その中核となるのがマイクロディスプレイ技術であり、電力効率、コスト、量産安定性の面では依然として改善の余地が残されている。また、車両OSやAIとの深い統合も重要な条件となる。SDV(Software Defined Vehicle)環境が拡大するにつれ、AIメガネは車両センサーやナビゲーション、ADASデータとリアルタイムで連動することが可能になる。

 

その場合、AIメガネは単なる情報表示デバイスにとどまらず、運転者に文脈に応じた情報を提供する「パーソナライズされたHMIノード」へと進化する可能性がある。将来的には、AI対話技術や演算性能の進展により、スマートメガネは車載ディスプレイに付随するアクセサリーではなく、独立した「AIアシスタント」へと進化していくと展望されている。