発行日:2026年7月13日
出典: CINNOResearch
中国TCLグループのディスプレイ子会社であるTCL華星光電(TCL CSOT)が、有機EL(OLED)の中大型分野で本格的な量産体制に入る見通しとなった。ディスプレイ、ノートPC、タブレットなど高付加価値ITディスプレイ市場において、競争構造の大きな変化が避けられない状況になりつつある。
初の自社製中大型有機ELパネル量産
報道によると、TCL華星がインクジェット印刷(IJP)技術を用いて開発した「27インチ4K・120Hz・RGBストライプ有機ELディスプレイパネル」は社内検証を完了し、量産段階に正式に移行した。医療用途などの特殊ディスプレイを除き、同社が自社で中大型有機ELパネルを量産するのは今回が初めてとなる。
これまでTCLはスマートフォン向け有機ELパネル以外の中大型分野では自社生産を行っておらず、同社ブランドの最新ゲーミングモニターに採用されている大型有機ELパネルもLGディスプレイから供給を受けていた。
武漢工場を拠点とした量産体制構築
今回のパネルは、輝度300ニット、DCI-P3色域カバー率99%といった仕様を備え、中国・武漢の第5.5世代インクジェット印刷有機ELラインで生産される。TCL華星は以前、約15億元規模の投資計画を発表しており、同工場の生産能力を従来の約3倍に拡張する方針を示している。
同工場は、広州で建設中の第8.6世代有機EL T8インクジェット印刷ラインが完成するまでの移行拠点および先行基地としての役割を担う見込みである。これによりTCLは、2027年に予定される第8.6世代工場の本格量産開始に先立ち、自社による有機ELパネル生産を前倒しで開始することになる。
インクジェット印刷技術の優位性と課題
インクジェット印刷技術は、紙にインクを印刷する方式と類似しており、ノズルから有機発光材料を直接噴射してパネルを形成する。従来の真空蒸着方式と比較して、製造コストを20%以上削減できるほか、生産速度も約30%向上する利点がある。
真空蒸着方式では、大型化に伴いファインメタルマスク(FMM)のたわみなどの問題が発生しやすく、大型パネルの製造が難しい。一方、インクジェット方式はマスクを使用せず材料を直接塗布するため、60インチ以上の大型テレビ向けパネルにおいてもコスト競争力を持つ可能性がある。
ただし、有機ELをテレビ用途に適用する場合には焼き付き(残像)などの技術的課題が依然として存在する。このためTCL華星は当面、ディスプレイ、ノートPC、タブレットなど中小型IT機器向け有機ELパネルに注力する戦略を採用している。
市場競争の激化と韓中対立の新局面
パネルの量産が開始されたとしても、実際にモニターなどの最終製品として市場投入されるまでには追加の開発工程が必要となるため、製品化までには一定の時間差が生じる見込みである。
それでもTCLの本格参入により、中大型有機ELパネル市場における韓国と中国の競争は一層激化すると予測されている。特に、サムスン電子やLG電子がテレビ市場の低迷を背景に、有機ELを軸とした高付加価値戦略をモニター分野へ拡大している中、中国勢のコスト競争力が大きな脅威として浮上している。
家電業界関係者は、「インクジェット印刷技術が大型パネルに本格適用されるには時間が必要だが、中小型IT機器市場においては価格面で極めて大きなインパクトを与えるだろう」と指摘している。