多原色ディスプレイが次世代色再現技術として台頭、RGB以後のディスプレイ競争が本格化


日付:2026年6月27日

出典:UBIリサーチ

 

2026年6月27日に中国・上海で開催された「Multi Primary Color Display Ecosystem Conference」では、従来のRGB三原色体系を超える多原色ディスプレイ技術が、次世代ディスプレイ産業の重要な方向性として強く打ち出された。今回のイベントはSID北京支部が主催し、Hisense、BOE、TCL CSOT、浙江大学、香港理工大学、TÜV Rheinland、中国電子技術標準化研究院など、産業界と学術界を代表する主要企業・研究機関が参加した。会議全体を通じて示されたのは、ディスプレイの競争軸が、これまでの解像度や輝度中心の争いから、色再現力、色精度、さらには人間の視覚認知を重視した方向へ移りつつあるという明確な変化である。 

 

RGB三原色の限界を超える多原色ディスプレイの意義

従来のRGB方式は、長年にわたりディスプレイ産業の標準的な色表現手法として用いられてきたが、より広い色域とより高い色精度を実現しようとする中で、構造的な限界が見え始めている。とくにBT.2020を超える広色域表現や、現実世界により近い自然な色再現を目指す場合、三原色だけでは十分に対応しきれない場面が増えている。このため、4色以上の原色を活用する多原色ディスプレイ技術が、次世代色再現技術として注目を集めている。今回のカンファレンスでも、多原色技術は単なる色域拡大のための手段ではなく、メタメリズムの低減、視覚的快適性の向上、有害な青色光の低減、生体リズムへの配慮といった、人間中心のディスプレイ技術へ発展し得る概念として議論された。つまり、多原色ディスプレイは「より鮮やかに見せる技術」であるだけでなく、「より自然で、より疲れにくく、より人に適した表示を実現する技術」として位置付け直されつつある。 

 

こうした流れは、ディスプレイ産業が成熟段階へ入る中で、単純なスペック競争だけでは差別化が難しくなっている現実とも関係している。解像度やピーク輝度が一定水準を超えた現在、消費者や業界が次に求めるのは、実際の視認体験における質的な違いである。色がどれだけ正確で、どれだけ自然で、どれだけ快適に見えるかという要素は、今後のプレミアムディスプレイ市場で重要な競争要素になる可能性が高い。多原色ディスプレイは、そうした次の競争段階に向けた有力な技術基盤として、中国のディスプレイ業界から強く提示されたといえる。 

 

Hisense、BOE、TCL CSOTが示した産業化への現実的アプローチ

今回の会議で特に注目を集めたのは、Hisenseが公開した世界初のRGBX多色ディスプレイ技術である。HisenseはすでにRGB Mini LED分野でも存在感を示してきたが、今回さらに一歩進めて、RGBC 4原色パネルとRGBC 4原色バックライトを組み合わせるエンドツーエンド構造のRGBX技術を提示した。この技術は、従来方式で問題となりやすかった色の混色や色純度の課題を改善しつつ、BT.2020基準で130%以上という非常に広い色域を目標に掲げている。これはMini LED LCDがOLEDと差別化しながら、より高付加価値なプレミアム画質市場へ踏み込むための新たな技術方向として示されたものだ。 

 

一方で、BOEは多色技術の産業化方向を提示し、TCL CSOTは多色ベースのLCDパネル技術を紹介した。ここから読み取れるのは、多原色ディスプレイが単なる研究テーマではなく、中国主要ディスプレイ企業が実際の事業戦略や製品化ロードマップの中へ組み込み始めているという点である。特に中国勢は、Mini LED、Micro LED、レーザーディスプレイなど、自国が強みを持つ技術群と多原色技術を組み合わせることで、OLEDとは異なる進化経路からプレミアム市場の競争力を高めようとしている。これは、OLEDを中心に高画質競争を進めてきた韓国勢とは異なる戦略であり、中国ディスプレイ産業が独自の差別化軸を明確にし始めたことを意味している。 

 

多原色ディスプレイはエコシステム整備が商用化の鍵になる

今回のカンファレンスでは、パネルやバックライトそのものだけでなく、標準化、光学測定、色品質評価、カラーマネジメントまで含めたエコシステム全体の課題についても議論が及んだ。多原色ディスプレイを本当に商用化し、市場で普及させるためには、ハードウェアだけ整えばよいわけではない。色変換アルゴリズム、コンテンツ制作環境、エンコーディング方式、伝送仕様、さらには認証体系まで一体で整備されなければ、製品としての完成度や市場受容性は高まらない。この点は、多原色技術が単独デバイス技術ではなく、産業全体を巻き込む新しい表示基盤であることを示している。 

 

UBIリサーチは今回のイベントについて、中国のディスプレイ業界がMini LED、Micro LED、レーザーディスプレイと多原色技術を組み合わせながら、OLEDとは異なる方向でプレミアム画質競争力を強化しようとしていることを示した場だと分析している。特にLCDベースのMini LEDは、高輝度、大面積化、価格競争力という面で依然として強みを持っており、そこへRGB Mini LEDや多原色技術を重ねることで、色域と色表現力をさらに押し上げる戦略が有効に機能する可能性がある。今後のディスプレイ市場では、OLED対LCDという単純な二項対立ではなく、「どの技術がどの用途で最も優れた視覚体験を提供できるか」という多層的な競争に移っていくとみられる。その意味で、多原色ディスプレイはRGBの次を担う色再現技術として、今後の高画質ディスプレイ市場を左右する重要なテーマになっていく可能性が高い。