2026年7月8日
出典:UBIリサーチ
中国の第15次5カ年計画が後押しするBOEの新成長戦略
中国で確定した第15次5カ年計画(2026年~2030年)では、スマートドライブ、新型太陽電池、新型エネルギー貯蔵などが戦略的新興産業の中核技術課題として明記されており、この「新型太陽電池」にはペロブスカイト太陽電池が含まれると受け止められている。こうした政策環境の変化を背景に、BOEはペロブスカイト太陽電池事業を単なる新規分野ではなく、次世代の成長を担う本格事業として位置付け始めた。全国人民代表大会の代表からも、2025年および2026年に連続して、ペロブスカイト太陽電池の産業チェーンを国家および省レベルの5カ年計画へ明示的に組み込むよう提案が出されており、中国における政策支援の流れは一段と強まっている。こうした国家レベルの後押しは、今後の量産化、設備投資、産業集積を左右する重要な土台になり得る。
BOEは2026年6月10日に開催した「2026年世界サプライヤーパートナー会議(BOE SPC 2026)」でペロブスカイト事業の成果を公開し、さらに7月2日に上海で開いた「2026 BOE Investor Day」では、ガラス基板パッケージング基板や光インターコネクトと並ぶ新たな中核事業として、ペロブスカイトを正式に打ち出した。これは、ディスプレイ大手であるBOEが、従来の表示技術にとどまらず、次世代エネルギー分野でも存在感を高めようとしていることを示す動きである。ディスプレイ産業で培った大型基板処理、精密製造、自動化量産の強みを、太陽電池分野へ横展開する構図が鮮明になってきた。
合肥拠点の500MW量産ラインと世界最大級モジュールで先行するBOE
BOEのペロブスカイト太陽電池事業が本格化した契機は、2024年3月に子会社の合肥BOE科技有限公司を設立したことにある。登録資本金は5億9,900万人民元で、これを足掛かりに総額8億7,100万人民元を投じた試験ラインプロジェクトが進められた。その結果、500MW規模のモジュール生産ラインが2024年12月から稼働を開始し、業界でも早期の量産実現事例として注目を集めている。生産拠点は合肥新站ハイテク産業団地にあり、BOEはここで1.2メートル×2.4メートルサイズという世界最大級のリジッド型ペロブスカイトモジュールの製造にも成功したとされる。量産ラインの立ち上げと大型モジュール化を同時に進めている点は、BOEが研究開発段階を越え、事業化フェーズへ本格的に移行していることを示している。
技術面では、BOEはリジッド、フレキシブル、タンデムの3路線を並行して開発している。さらに、グローブボックス段階の2.5センチ×2.5センチ、実験ライン段階の30センチ×30センチ、中規模試験ライン段階の120センチ×240センチという3段階の開発・製造プラットフォームを構築し、基礎研究から中型量産検証まで一貫した体制を整えた。2025年12月時点では、グローブボックスで安定効率27.61%、実験ラインのフレキシブル素子で21.39%、中規模試験ラインのリジッド素子で20.11%、フレキシブル素子で16.6%を達成しており、第三者認証機関を通じてペロブスカイトモジュール効率に関する4件の世界記録を樹立したという。こうした数値は、BOEが単なる量産先行企業ではなく、技術競争力でも国際的な存在感を高めていることを物語っている。
BIPVから宇宙用途まで応用拡大、コーニング連携で事業の厚みも増す
応用分野の拡大も、BOEのペロブスカイト戦略を理解するうえで重要である。同社は世界初のペロブスカイト建築一体型太陽光発電、すなわちBIPVプロジェクトである「ゼロカーボンハウス」を建設し、中国国内で初めて、かつ唯一、ペロブスカイト技術を適用した光電建築評価認証を取得したとされる。さらに、アジア太陽光発電産業協会から「光貯蔵応用賞」も受賞している。2025年11月には100kWh級の実証発電所も建設したと発表しており、民生用家電、建築、地上発電所へと応用範囲を急速に広げている。業界では、今後BOEが車載用途や大規模発電用途に加え、将来的には宇宙用太陽電池へも段階的に展開していくとの見方が出ている。実際にBOEは2026年6月1日、北京宇宙コンピューティング産業イノベーションセンターの設立に参加し、宇宙向けペロブスカイト太陽光技術の提供に乗り出したと伝えられており、宇宙用途への第一歩もすでに始まっている。
また、BOEは2026年5月、世界的な素材企業であるコーニングと業務協定を締結し、ガラス基板パッケージング、フォールダブルガラス、ペロブスカイト用ガラス基板、光インターコネクト分野で協力する方針を示した。コーニング側も、20年以上にわたる協力関係を基盤に、新たに1,000億元規模の成長機会を共同で切り開きたいとの期待を表明している。UBIリサーチは、中国政府がペロブスカイトを事実上、国家レベルの新たな成長技術課題として扱い始めたことに加え、GCLペロブスカイト、GDI、Xianna Optoelectronicsなどのスタートアップ勢もGW級生産ラインの稼働を継続している点に注目している。そのなかでBOEは、ディスプレイ産業で蓄積したガラス基板加工、精密製造、自動化量産の競争力を武器に、ペロブスカイト産業の先導グループとしての地位を固めつつあると評価される。今後は、中国の5カ年計画の詳細実行案のなかでペロブスカイトがどこまで明示されるか、BOEの500MWラインの稼働率がどこまで高まるか、さらにコーニングとの協業がどの速度で具体的な成果へつながるかが、事業の実力を測る重要な指標になる見通しである。