2026年4月12日/出典:WitDisplay
綿陽H7プロジェクト浮上も意思決定は遅延
中国ディスプレイメーカーHKCによる第6世代有機EL投資の行方が依然として不透明な状況にある。HKCは現在、大型LCDディスプレイの量産を主力事業としており、長期的な成長を見据えて有機EL分野への参入を検討してきたが、具体的な進展は緩やかなままとなっている。
2025年後半には、四川省綿陽において「H7」と呼ばれる第6世代有機EL生産ラインを建設する構想が浮上した。当時は2026年上半期中に投資判断が下されるとの見方が一般的であったが、現在はすでに第2四半期に入っているにもかかわらず、正式な発表は行われていない。
業界関係者によると、2025年後半にはHKCの有機EL投資に関するさまざまな予測が飛び交っていたが、年末以降は新たな情報がほとんど出ていないという。仮に2027年までに蒸着装置などの中核製造装置をH7ラインへ導入する計画であれば、すでに採用技術や装置メーカーは確定しているはずだが、現時点ではその詳細も明らかになっていない。
ハーフカットかフルカットか、製造技術選択が鍵
HKCの第6世代有機EL戦略において最大の焦点は、どの製造プロセスを採用するかにある。現在主流となっているのは、精密金属マスク(FMM)を用いたハーフカット方式である。この方式では、薄膜トランジスタ(TFT)工程完了後に基板を半分に切断し、その後FMMによってサブピクセルを真空蒸着する。サムスンディスプレイ、LGディスプレイ、BOE、華星光電など主要メーカーがこの方式を採用している。
これに対してフルカット方式は、TFT工程後も基板を切断せず、元の大きさのままFMMを用いてサブピクセルを形成する技術である。この方法では蒸着に使用できる基板面積が拡大するため、IT用途などの大型有機ELディスプレイへの対応力が高まると期待されている。
しかし、HKCがフルカット方式を採用する場合、キャノントッキやSunic Systemなどの装置メーカーによる新たな蒸着製造装置の開発が不可欠となる。製造装置メーカーにとっては、価格競争力や供給能力がそのまま収益性に直結するため、この技術選択はサプライチェーン全体にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
精密金属マスクレス技術eLEAPと市場環境が判断左右
もう一つの有力候補とされるのが、精密金属マスクレス技術であるeLEAPである。この技術はFMMを使用せず、有機材料を全面蒸着した後、露光工程によってピクセルパターンを形成する点が特徴であり、理論上は高解像度化と開口率向上を同時に実現できる可能性がある。HKCはすでにJDI(ジャパンディスプレイ)から中古のeLEAP関連製造装置を取得しているとされるが、量産技術としての実績はまだ確立されていない。
さらに、HKCの投資判断には外部要因も大きく影響している。特に、経営破綻した柔宇科技(Royole)から取得した有機EL工場の活用状況が重要視されており、この工場で試作品を生産し、技術的・商業的な成果が確認された後に本格投資が決定される可能性が高いと見られている。
また、中国国内ではすでに第6世代有機ELラインの生産能力が大幅に拡大しており、市場競争は激化している。このような環境の中で、量産経験を持たないHKCが新規参入することは容易ではない。一方で、サムスンディスプレイやBOEといった主要企業はすでに第8世代有機ELラインの建設を進めており、業界の競争軸は次世代へと移行しつつある。
現在HKCは重慶、滁州、綿陽、長沙の各拠点でLCDディスプレイの量産を行っており、有機EL分野への参入は依然として慎重に検討されている段階にある。今後の技術選択と市場環境の見極めが、同社の成長戦略を左右する重要な分岐点となる。