8.5世代OLEDラインはテレビ向けからモニター向けへ移行へ――RGB MiniLED TV攻勢とゲーミング需要拡大が大面積有機EL戦略を変える


日付:2026年6月22日

出典:UBIリサーチ

 

UBIリサーチが2026年6月22日付で公開したレポートによると、8.5世代OLEDラインの稼働構成は、今後テレビ向け中心からモニター向け中心へと徐々に移行していく可能性が高まっている。背景には、中華圏メーカーによるRGB MiniLED TVの攻勢でプレミアムテレビ市場の競争環境が大きく変化していることに加え、ゲーミング用途を中心にOLEDモニター需要が急拡大していることがある。これまで大面積有機ELの主戦場だったテレビ市場では、価格競争と製品差別化の難しさが強まりつつあり、一方でモニター市場では高付加価値製品としての収益性が維持されている。このため、サムスンディスプレイとLGディスプレイの8.5世代ライン運用は、今後ますますモニター向けに比重を移していくとみられている。 

 

RGB MiniLED TVの台頭でテレビ向け有機ELの成長シナリオが変化

レポートではまず、テレビ向けOLED出荷量が2028年に960万台へ達した後、2029年以降は緩やかに減少に転じるとの見通しが示された。その理由として、プレミアムテレビ市場の代名詞として定着してきたOLED TVが、2026年以降に本格出荷されるRGB MiniLED TVによって市場を徐々に侵食される可能性が高いことが挙げられている。OLED TVを最も多く販売している家電メーカーはLG電子とサムスン電子だが、両社は2028年まではOLED TV販売を増やす、あるいは維持する戦略を持っているとされる。しかし、TCLとHisenseがテレビ市場の主導権確保を狙い、RGB MiniLED TVを前面に押し出してプレミアムテレビ市場へ積極進出しているため、LG電子とサムスン電子もRGB MiniLED TV市場への対応を強化せざるを得ない状況になっている。

 

 

The Origin of RGB MiniLED TV

その象徴的な事例として、FIFA World Cup 26の公式スポンサーであるHisenseは、競技場の広告文句に「The Origin of RGB MiniLED TV」という表現を掲げ、市場先行イメージの確立を狙っていると紹介された。これは単なるマーケティング表現ではなく、プレミアムテレビ市場の主導権がOLED一極から複数技術競争へ移りつつあることを示すシグナルでもある。つまり、テレビ向け有機ELは依然として高画質技術として強い地位を持つものの、価格面と商品訴求の両面でRGB MiniLED TVとの正面競争にさらされる局面へ入ったことになる。テレビメーカーが有機ELパネル価格の引き下げを強く要求している点も、この構造変化を裏付けている。レポートでは、テレビ向けOLEDパネル価格が年率5~10%水準で下落していると分析しており、数量を追っても収益を確保しにくい事業環境が形成されつつある。 

 

ゲーミングOLEDモニターが8.5世代ライン再編の決定打に

もう一つの大きな要因として、OLEDモニター需要の急増が挙げられている。レポートによれば、テレビ向けOLED出荷量が減少方向へ向かうのは、サムスン電子やLG電子をはじめとするゲーム専用モニター販売企業の需要拡大によって、8.5世代ラインの生産能力がテレビよりモニターへ振り向けられるためでもある。eスポーツ市場の拡大に加え、高画質化が進むゲームコンテンツに対応できる高速応答性能への需要が強く、OLEDモニター市場は非常に速いペースで成長している。27~32インチのモニター向けOLEDを生産できる8.5世代ラインを保有するサムスンディスプレイとLGディスプレイは、拡大するゲーミングモニター市場への対応を強めるため、超高仕様OLEDパネルの開発と販売に経営資源を集中しているという。さらに、NVIDIAによるゲーミングPC事業強化も、ゲーム専用モニター市場の拡大を一段と加速させる要因として指摘されている。

 

 

収益性の観点でも、モニター向けOLEDの優位性は鮮明だ。テレビ向けOLEDパネルはRGB MiniLED TVとの競争のため値下げ圧力が年々強まっているが、ゲーム向けOLEDモニターは超高価格帯の製品であっても販売が好調で、パネル単価も大きく崩れていない。その結果、同じ8.5世代ラインを使う場合でも、テレビ向けOLEDパネルよりモニター向けOLEDパネルの方が相対的に高い営業利益を生みやすい構造になっている。UBIリサーチは、この収益差が今後のライン配分を決定づけるとみており、8.5世代OLEDラインの稼働はテレビ向けからモニター向けへと徐々に移行すると予想している。 

 

サムスンディスプレイについては、2026年のQD-OLEDパネル出荷見通しとして、モニター向けが430万台、テレビ向けが100万台と分析されている。2028年にはテレビ向けが100万台水準を維持する一方、モニター向けOLED出荷量は820万台まで増え、ほぼ2倍に拡大する見通しだ。さらに2029年には、サムスンディスプレイのモニター向けQD-OLED出荷量が1,000万台を超える一方、65インチ以上の大型パネル生産減少によってテレビ向けパネル出荷量は30万台程度まで縮小すると予想されている。レポートでは、事実上サムスンディスプレイのテレビ向けQD-OLED事業は大幅縮小局面に入る可能性が示唆されている。 

 

一方、LGディスプレイはやや異なる立場にある。LGディスプレイは年間1,000万台規模のテレビ向けOLEDパネル生産が可能な体制を持つ一方、モニター向けOLED市場ではまだ実績が大きくない。2025年までの実績ベースで保守的に見ると、2026年のモニター向けOLED出荷量は約70万台、2030年でも240万台規模と見込まれている。ただし、主要顧客であるLG電子はこれを上回るOLEDモニター販売を計画しているとされ、より強気に見れば2026年のLGディスプレイのモニター向けOLED生産は100万台水準に達する可能性がある。2029年以降はテレビ向けWRGB OLED出荷量の減少も見込まれており、LGディスプレイにとってモニター向けOLED事業の成否は、大型有機EL事業全体の将来を左右する重要テーマになるとUBIリサーチは分析している。

 

さらに、テレビ向けとモニター向けOLED市場見通しをもとに、サムスンディスプレイとLGディスプレイの8.5世代ラインに投入される基板面積合計を試算すると、2026年には810万枚のテレビ向けOLEDを生産するために24Mm²のガラス基板面積が必要だが、モニター向けOLED需要の増加によって2030年にはテレビ向けOLED生産面積が20Mm²まで減少する見通しだとされる。これは単に製品ミックスが変わるという話ではなく、大型OLED製造装置の使い方、基板投入計画、収益構造、主要顧客戦略までを含めて、大面積有機EL産業全体が再編局面に入っていることを意味する。今後の大面積有機EL市場では、テレビ向け数量拡大よりも、モニター向け高付加価値化が事業の安定成長を支える中核テーマになっていく可能性が高い。